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 「君は何を求めて学ぶのか」――。受験勉強に追われ、学ぶ目的を見失いそうになっている中高生に向けたサマープログラム「学びを取り戻せ!」が、8月17日から4日間、東京都目黒区の東大先端科学技術研究センターで開かれた。机上で知識を詰め込む受験生の夏に、あえて机を離れ、「答えのない学び」から学びの本質を考えようという初の試みだ。

 このプログラムは、東大の「異才発掘プロジェクトROCKET」の主催。受験勉強に没頭する中で、答えのない学びを追求することを忘れてしまう生徒が多いのではと感じ、今年初めて企画した。中3から高3を対象に全国から公募し、志望動機などに勉強や学校への疑問を抱えていると記した10人が選抜された。

 卒業生の半分以上が東大に合格する都内の高校から参加した男子生徒は「日本の学校教育が嫌い」だという。得意な数学は授業が簡単すぎる。一方で古文は赤点ギリギリ。なぜ、得意なものをもっと伸ばせる教育が日本にないのか。塾に追われ、学校の授業中も塾の課題をこなす同級生たちの姿にも疑問を感じて、応募した。

 関西地方有数の高等専門学校に通う男子生徒は「テストのためにする勉強の意味がわからなくなってきた。点数がとれる人間は本当に優秀な人間なのか」と思う。参加者はほかにも不登校の生徒やインターナショナルスクールに通う生徒もおり、多様な顔ぶれだ。

 1日目は、東大先端研の若手研究者の研究室を訪問し、VR(仮想現実)やロボット、量子力学など、最先端の研究を見た。答えのない学びを追求する研究現場のリアリティーを感じるためだ。

 2日目は、視覚障害者UDアドバイザーの金澤真理さんとJR目白駅周辺を回った。ほとんど視力のない金澤さんがどのように駅で切符を買い、ATM(現金自動出入機)で出金しているのか。タッチパネルが見えない人向けに音声ガイダンスの流れる電話を操作したり、カフェでメニューの内容を金澤さんに上手に伝えられるかどうかを経験したり。社会の気づきにくいシステムや法律も知り、人の知恵や工夫が障害者と生きる社会にどう役立つかを体験した。

 また、社会活動家の湯浅誠さんと、かつては日雇い労働者が寝泊まりする宿が軒を連ねていた東京・山谷地区を巡った。夢を抱いて上京したものの、ついのすみかになってしまった人の遺品が残る部屋などに2人1組で入り、15分間、そこで暮らしていた人々について考えた。

 3日目は、官公庁や企業のトップなど、世界的なリーダー候補の40代に全人格的な総合能力をつける「東大エグゼクティブ・マネジメント・プログラム(EMP)」の講師から講義を受けた。EMPの受講料は通常は半期で600万円近くかかるが、この日は特別協力で、総長室顧問ら4人の研究者が子どもたちに講義をした。

 地球温暖化について話が及ぶと、「言葉や知識はわかるが、生まれてからずっと暑いし、あまり温暖化を感じない」という声があがった。また「権利とは何か」を追求する講義や、日本とは違う不登校など米国の教育事情についても講義を受けた。

 4日目は文学、芸術と科学の関係について考える講座もあった。

 参加した高校生は「どれも塾や学校では習わないことばかりだった。実際に行って見たことで価値観が少し変わった」。別の参加者は「苦しい状況の人々がいると実感した」「仲間と議論する中で学ぶ意味が少し見えた」と言う。

 プログラムを企画した中邑賢龍教授は「すべての生徒に共通する課題が見えた。知識はあるがリアリティーがない。社会を見ていない。本当の学びが何か気づかないまま、ただ勉強している。大学入試改革よりも、日本の教育自体をもっと変えるべきだ」と話した。(宮坂麻子)