6月、米ニューヨークのマンションの一室で、彼は鏡の前に座っていた。つけまつげを4枚重ね、唇は青や水色で彩った。ウィッグは5色のものを選んだ。
3時間かけた女装には自信があった。ドラァグクイーンと呼ばれる、あこがれの装い。でも、この姿で出かけるのは初めてだった。マンションの扉をそっと開けた。
ずっと、人目を気にして生きてきた。
小学生のころ。同級生の男子を目で追っているじぶんに気づいた。笑うときに口を手で隠すしぐさを「キモい」とからかわれた。
好きな女子だれ? 中学時代はそんな質問に、生きた心地がしなかった。適当に相づちを打ってごまかした。
高校生になり、彼女をつくった。キスもした。でも、違和感をぬぐえなかった。初めて手にした携帯電話で「ゲイ」と検索した。
同性でも結婚できる国がある…