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 恐竜「むかわ竜」こと「カムイサウルス・ジャポニクス」が7200万年の時を超え、現代によみがえった。北海道むかわ町で見つかった骨の化石が、「カムイ(神)の竜」になるまでには、町の人々のドラマと、いくつもの奇跡があった。

ザ・パーフェクト

 ありふれた田舎の一般道から狭い林道に入ると、ひんやりとした空気に包まれた。

 シラカバの林の中を、獣の気配を感じながら車でゆっくりと進む。静寂のなか、木漏れ日が降り注ぐ。神話の世界に迷い込んだような、厳かな気持ちになる。

 突然視界が広がった。木々が切りひらかれ、目の前には大きな崖がそびえ立つ。ここが、日本の恐竜研究史を塗り替えた大発見「むかわ竜」が掘り出された、白亜紀後期の地層だ。

 7200万年の時を超えて現代によみがえった恐竜、むかわ竜。全長8メートルを超える骨格の8割以上が、素晴らしい保存状態で発見された。特に尻尾の部分にあたる13個の尾椎骨(びついこつ)はきれいにつながっていた。この化石が、世界の恐竜ファンから「ザ・パーフェクト」と呼ばれるゆえんだ。大型恐竜として、これだけ骨がそろった全身骨格化石は、本邦初だ。

 むかわ竜の研究に携わってきた小林快次(よしつぐ)・北海道大学総合博物館教授(47)らが発表した論文では、むかわ竜が新属新種であること、海岸線を好んで生活していたことなどが、新たに明らかになった。

 そう、発掘現場のあるここむかわ町穂別はかつて海だった。むかわ竜はアンモナイトなどの海生生物と一緒に、土の中で眠っていたのだ。今も灰色の土のあちこちに、丸みを帯びた軟らかな塊が見える。「ノジュール」といって、化石を包む岩塊だ。ノジュールを手で割ると、中から貝殻が姿を現した。

化石ハンターが見つけたのは…

 海だったはずの地層から、陸上動物のむかわ竜が発掘された。これこそが道の始まりだった。「世紀の発見」が専門家たちによって正しくリレーされ、多くの人にお披露目されるまでにつながっていく。

 話は2003年にさかのぼる。むかわ町穂別の化石愛好家、堀田(ほりた)良幸さん(69)がこの林道にリハビリ兼散歩で足を踏み入れたことから動きだした。堀田さんは腕利きの化石ハンターだ。土の微妙な色合いから、化石の有無を見分ける。その日訪れた崖沿いの道。ふと顔を上げると、遠目に崖が変色して見えた。近づくと、果たしてそこに尾のような骨が見つかった。「桜井君にやるべ」。すぐさま穂別博物館の桜井和彦館長(当時は学芸員)に連絡し、7個のノジュールを回収してもらった。

 堀田さんの見立ては「ワニ」だ…

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