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スポーツ好奇心

 8月30日から9月8日まで、韓国・機張(キジャン)で開かれた野球のU18(18歳以下)ワールドカップ(W杯)。5位に終わった高校日本代表とは別に、この大会に挑んだ日本人がいた。審判として選ばれた大阪市の佐藤加奈さん(32)だ。初めて男子の国際大会をジャッジした女性審判は、何を感じ、学んだのか。

 8日にあった台湾―米国の決勝。佐藤さんは外野審判として、左翼線付近から打球を判断し、戦況を見守った。「決勝のグラウンドに立てる6人に選ばれたのは光栄」。初めて挑んだ男子の国際大会が、終わった。

 今年3月、主催者の世界野球ソフトボール連盟(WBSC)から参加の打診を受けた。開催期間は8月下旬から9月初旬。大阪市内の中学校で教諭として働く佐藤さんにとって、勤務との調整が難しかった。学校関係者ら周囲の後押しを受け、渡韓を決意。その理由はシンプルだった。

 「私もステップアップがしたい」

 大阪市出身。高校時代はバスケットボール部だったが、進学した日体大では新しいことにチャレンジしようと女子軟式野球部の扉をたたいた。もともと野球好きで、元阪神の金本知憲さんのファン。「初心者なのに、背番号は金本さんと同じ『6』に、無理やりしてもらった」。卒業後、教職の道に進み、野球部の顧問を任された。その中で取り組み始めたのが、審判だった。

 「最初はスコアもつけられないくらいだったけど、新しい分野を勉強する楽しさが、やりがいになりました」。気付けば、仕事の一環からライフワークになるほど、はまっていた。大学野球の試合で経験を重ね、昨夏には大阪大会で「高校野球デビュー」。国際審判員として女子の国際大会にも2度招かれ、実績を積んできた。

 初めての男子の国際大会。約10試合をさばいたが、忘れられない試合がある。初めて球審を務めた台湾―スペイン戦だ。ただでさえ重圧を感じていたのに、試合は接戦となり、緊迫感が増した。その中で、ベンチの態度や反応が気になった。「審判に対して抗議がない日本の高校野球と違って、海外の選手はあおってくる感じがあった」。試合後、安堵(あんど)感とともに、「冷静なら、もっとうまくさばけたはず」という反省が、涙となってあふれ出た。

 それでも、大会を通じて攻める姿勢は忘れなかった。例えば、際どいタイミングのアウトをコールするとき。日本のアマチュアの大会なら淡々としたジェスチャーでジャッジするところ、宙を派手に殴るような「パンチアウト」を見せた。日本では右腕で判定を表現するのが一般的だが、左利きの佐藤さんは左腕でパンチアウトをした。

 帰国後、その裏にあった思いを教えてくれた。「海外の審判から『自分の判定に自信を持て。説得力を持たせるために大きなジェスチャーをするんだ』と言われて、やってみようと」。審判としての幅を広げようと挑戦を続けた韓国での10日間を、笑顔で振り返った。

 今大会に招集された審判22人のうち、女性は2人だけ。審判のなり手不足に悩む国内のアマチュア球界では、なおさら、女性審判は珍しい。「『女のくせに』と思う人もいると思うけど、私に何か変えられることがあれば貢献したい」。では、高校野球の甲子園大会を任されたら? 「あの重圧の中でやるのはちょっと……」。苦笑いで言いよどんだ後、真顔になって言った。「でも、誰かがやらなあかん。なら、やってみたい」。佐藤さんの挑戦は続く。(小俣勇貴

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