横浜DeNAベイスターズ公認ライター・日比野恭三
斎藤はん、と呼んだ方が、ファンの間では通りがいいかもしれない。
斎藤俊介は、ルーキーだった昨年、ファンフェスティバルでお笑い芸人のひょっこりはんのモノマネを披露し、強いインパクトを残した。
だが、投手としてはファームを含めても登板機会はゼロ。右肩の故障に泣かされた。
手術に踏み切ったのは昨年7月。葛藤の末の決断だったと振り返る。
「毎朝、室内練習場でストレッチをする時に1球投げてみる。痛いのを確認して、落ち込んでから練習に入るという感じでした。保存療法か手術かで何カ月も悩みました」
肩にメスを入れる不安は大きかった。手術を受けると決めた日の夜に「やっぱりやめます」と、トレーナーに連絡したこともあった。
気持ちに整理をつけ、手術を受けた。その効果は、心理面にも表れる。即戦力の期待がかかる社会人出身ゆえ、早くけがを治さなければとの焦りにさいなまれていたが、「2年目からが勝負」と、早い段階で切り替えられたのだ。以後、プロの長いシーズンを戦い抜ける体とフォームをつくるために、時間を費やした。
今年7月、斎藤は初めて1軍に昇格する。5日の巨人戦、6点ビハインドの場面で1イニング2奪三振の鮮烈デビューを飾ると、その後も中継ぎとして好投を続けた。
試練は8月だ。登板13試合目の阪神戦で5失点と打ち込まれた。23日、「体のキレが落ちている」との指摘を受けてファームに降格した。
「下半身が疲れてくると、どうしても上(半身)ばかりに頼ってしまう。ダメな時にどう抑えるのかという投球術も、まだプロには通用しないレベル。自分の課題です」
約2週間をファームで過ごし、9月に1軍に帰ってきた。8日の中日戦での先発起用を言い渡されたのは、登板3日前のことだったという。
斎藤は苦笑する。
「言われた時は、足の震えが止まらなかったです。もともと緊張しいなので」
チームメートたちの言葉に救われた。
「(投げ合う)大野雄大は侍ジャパンに入るほどの投手だぞ」
「中日打線は振れている。『打たれて当たり前』くらいに思っておけばいい」
心を少しばかり軽くした斎藤は、「いつつぶれてもおかしくないくらいの勢いで」投げた。首脳陣の予想を超える5イニングを投げて、1失点。たしかな手ごたえを得た。
「ストライク先行でテンポよく投げられた。自分がやってきたことが間違っていなかったんだと再認識できた試合でした」
来シーズンも視野に入れ、斎藤は言う。
「先発でも中継ぎでもロング要員でも、どこでも行けることを監督たちには知ってほしい。『便利屋』的な立場になりたいです」
何事も断れない性格だ。寮では、年下の選手に誘われると何度でも風呂に付き合う。
この男なら、首脳陣からの指示に全力で応えるだろう。より重要な場面でマウンドを託される存在になること。いまはそれを目指している。(横浜DeNAベイスターズ公認ライター・日比野恭三)
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