東京都内の居酒屋で、記者(35)が友人(33)と飲んでいた時の話だ。
友人は新卒で入社した大手メーカーを数年前に辞めた。日本を代表する大手企業で、給与水準も高く、福利厚生も整い、有給取得率も極めて高かった。はっきり言って「ホワイト企業」。仮に景気が大きく落ち込んで日本の多くの製造業が苦境に陥ったとしても、きっとこの会社は最後まで生き残るだろう、という会社だ。そんな条件の良い会社をなぜ辞めたのか。友人はいくつかの理由を言ってから、不思議な言葉を口にした。
「会社に『朝の妖精さん』がたくさんいたことも理由の一つ」
朝の妖精さん? どういうこと? というか、妖精ってそもそもなんだっけ?
辞書を引くと、「(西洋の伝説・童話などに出て来る)動植物や森・湖など自然物の精。たいていは小人の姿をしたもの。フェアリー」(新明解国語辞典第五版)とある。
フェアリー! 大手メーカーにフェアリー?
後日、友人が提案してくれた。「もし妖精さんのことを詳しく聞きたいなら、名付け親を紹介しましょうか」。ちょうど企業での働き方改革をリサーチしていたところだった。いま取材している「老後レス社会」にぴったりな話だという。ぜひ、ぜひ、お願いします。
高齢になっても働くのが当たり前――。そんな時代の足音がひたひたと聞こえます。国全体を眺めても、人口減少による現役世代の激減を前に、政府は「一億総活躍」という言葉で高齢層を労働力に繰り入れようとしています。私たちの人生から「老後」という時間が消えていくのでしょうか。「老後レス時代」の生き方を考えます。
午前9時に消える「妖精さん」
半月後、都内の喫茶店で「名付け親」の女性(34)に話を聞いた。
この女性も、同じメーカーに勤務していたが、「妖精さん」に嫌気がさして退社したという。いったい妖精さんとはなんだろう。
女性によると、妖精さんが生息するのはこのメーカーの関東地方の拠点。運が良ければというよりも、目をこらせば身近にいる存在だった。早朝の食堂にあらわれ、午前9時には姿を消してしまうという。
「フレックスタイムをフル活…