シリーズ:眠る
認知症家族の介護、コツはある? 負担減らす九つの法則
【アピタル+】患者生きる・眠る「認知症の介護」(不眠)
認知症の家族を介護する人は、精神的・肉体的な負担で自身の健康を害する恐れもあります。認知症についての正しい知識を持ち、介護の負担を減らすにはどうしたらよいのか。公益社団法人「認知症の人と家族の会」副代表理事である医師の杉山孝博さん(72)に聞きました。
――認知症の肉親が夜も起きていて、介護する家族が不眠に悩むことは多いようです。認知症の本人も介護者もしっかり睡眠を取るにはどうすればよいのでしょうか。
杉山 認知症の人が昼間はぼんやりしていて、夜になるとなかなか眠らないために、介護する家族が不眠になることはよくあります。認知症の人が夜眠らない一番大きな要因は恐怖感です。
認知症の人が夜中目を覚ましたとき、真っ暗で自分がどこにいるかわからないという不安に襲われ、頼りにしている家族の名前を呼ぶことがあります。家族の顔を見ると安心してしばらくは眠ってくれますが、眠りが浅いとすぐに目を覚まし、また家族を呼びつける。それが繰り返されると、介護をしている家族は眠れなくなります。認知症の人が持つ恐怖感を取り除くためには、夜でも寝室を明るくしておいたり、あらかじめ録音しておいた家族だんらんの音声や童謡を流しておいたりするという方法もあります。
認知症の人が夜に何度もトイレに行くために、介護者がなかなか眠れないこともありますが、これも高齢者の体の機能の衰えが影響しています。年を取ると、全身に血液を送り出す心臓の機能が落ちてくるので、昼間は尿を作る腎臓に十分な血液が供給されません。夜になって腎臓が尿を作り、帳尻を合わせているのです。そうした高齢者の体のメカニズムを知ることで、介護者がイライラする気持ちも少しは治まるのではないでしょうか。
介護者は介護のほかに仕事や家事に追われ大変だと思いますが、肉親がデイサービスに行っている間や、仕事や家事の合間に短時間でも昼寝をして、不足しがちな睡眠時間を確保することが重要です。
認知症の人の特性とは
――認知症の家族を介護するうえで、家族はどんなことに気をつければよいのでしょうか。
杉山 肉親が認知症になったとき、家族の反応は四つの段階をたどることが一般的です。最初は「戸惑いと否定」、次が「混乱・怒り・拒絶」の時期です。それを過ぎると、「割り切り」の気持ちが出てきて、最後に「受容」のときを迎えます。このうち最も辛いのが二番目の「混乱・怒り・拒絶」の時期です。この時期を乗り切るためのコツが以下の五つです。
認知症の特性をよく理解することは、介護者の負担の軽減にもつながります。私は「認知症の9大法則」と名付けていますが、次の九つの特性を理解することが必要です。
①「記憶障害に関する法則」
認知症の記憶障害は、見たり聞いたりしたことを覚える「記銘力の低下」、食べたことや旅行したことなど体験したこと自体を忘れる「全体記憶の障害」、現在から過去にさかのぼって記憶が失われ、最近のことを忘れても昔のことを覚えている「記憶の逆行性喪失」の三つに大別される。
②「症状の出現強度に関する法則」
認知症の症状は、家族や介護者など、より身近な人に対して、より強く出る傾向にある。
③「自己有利の法則」
認知症の人は、自分にとって不利なことは認めたがらない傾向がある。
④「まだら症状の法則」
認知症の症状は継続して一定に現れるわけでなく、まだらに出現する。
⑤「感情残像の法則」
体験したこと自体は忘れても、そのときに感じた「うれしい」とか「嫌だ」という感情は残像のように残ることがある。
⑥「こだわりの法則」
一つのことへのこだわりが強くなり、否定されると、一層こだわりが増すこともある。
⑦「作用・反作用の法則」
認知症の人に対して強い言い方や対応をすると、同じように強い反応が返ってくる。
⑧「認知症症状の了解可能性に関する法則」
認知症という病気に対する知識を深め、相手の立場になって考えてみると、たいていのことは理解できる。
⑨「衰弱の進行に関する法則」
認知症の人は、認知症になっていない人と比べて老化の進行が早いという統計がある。
認知症の家族がいる介護者は孤立してしまいがちですが、同じ立場の人々が集う場所に出かけて、悩みを聞いてもらったり、自由に何でも話し合ったりすることで、気持ちが変わることがあります。認知症の家族を持つ介護者が仲間づくりをしたり、情報交換をしたりする場所が自分の住んでいる地域にあるかどうかといった情報は、インターネットで得ることができますし、地域包括支援センターで教えてもらうこともできます。
◇ご意見・体験は、氏名と連絡先を明記のうえ、iryo-k@asahi.comへお寄せください。
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