「あしたからあんたは裏玄関」 涙の母が支えた芸妓引退

有料記事京都花街マガジン

佐藤秀男

 京都で最大の花街、祇園甲部でこの夏、ひとりの芸妓(げいこ)が引退した。沖縄県出身のつる葉さん(28)。2007年春に舞妓(まいこ)のデビュー「店出し」をした時は、長い歴史がある祇園でも珍しい沖縄出身の舞妓が誕生したと話題になった。結婚を機に祇園を去る決意をした彼女には、ずっと見守り、支えてきた女性たちがいた。

 結婚したら身を引くのが京都の花街の不文律だ。芸妓が円満に花街を去る際は「引き祝い」と称し、「引祝」と書かれた三角の和紙に芸妓名と本名を書き、関係者に配る。つる葉さんは今年に入って結婚が決まり、7月25日をもって引退した。

 約1カ月後、世話になったお茶屋など約30軒を訪ね、これまでの感謝を伝えた。引き祝いは、15歳の時から祇園で苦楽を経験した芸妓・つる葉としての最後の仕事になる。

 「長々とおおきに。お世話になりました」。ふだん芸舞妓の着物を着付ける男衆(おとこし)の小島一展(かずのぶ)さん(57)と、なじみのお茶屋のおかみらに頭を下げて回った。「寂しくなるなあ」「また遊びに来なさい」。次々とねぎらいの声がかかった。

 舞をはじめ、稽古のために数え切れないほど通った八坂女紅場学園にも立ち寄った。京舞井上流の家元、井上八千代さん(62)からは「これからのことがうまくすすみますように」と言葉をかけてもらったという。

 一軒一軒、お茶屋を訪ねて回るつる葉さんを取材していて、途中から、少し離れたところでつる葉さんを見守り、後をついてくる女性がいることに気づいた。

 声をかけると、実の妹の勝連桜子(かつれん・さくらこ)さん(24)だった。京都市内の病院で看護師として働く桜子さんは、この日は仕事が休み。姉の芸妓としての最後の姿を、家族を代表して見届けに来たのだという。

 姉の後を追うように京都の大…

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