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【アピタル+】患者を生きる・眠る「遺族のうつ」(経過や治療)

 大切な人を失うことは、「人生最大のストレス」とされます。悲しみが続くだけでなく、遺族の体や心に様々な症状が出てくる場合があります。死別の悲しみにどう向き合えばいいのでしょうか。国立がん研究センター中央病院(東京都中央区)で、「家族ケア外来」を担当する加藤雅志医師(45)に聞きました。

拡大する写真・図版国立がん研究センター中央病院で、「家族ケア外来」を担当する加藤雅志さん=東京都中央区築地

 ――「家族ケア外来」にはどのような人が受診しますか。

 家族が、がんで亡くなったという遺族が多いです。病院のホームページを見るなどして、家族が生前、別の病院にかかっていたという方も多く受診しています。

 つながりが強く、身近な人が亡くなると、強い悲しみを抱きます。配偶者である場合もあれば、親の場合もあり、人それぞれです。つながりの強さによって、心や体に出る影響も変わってきます。

死別後、心身に現れる反応
家族との死別は、「人生最大のストレス」とされ、遺族の心や体には様々な影響が生じる。英国や米国の研究では、配偶者の死別後に心筋梗塞(こうそく)や脳梗塞(こうそく)などの心血管疾患の発症率が上昇。3~7%の人口に発症するとされるうつ病は、死別1年後の時点で15%にみられるとの報告がある。

 ――どのような症状が出るのでしょうか。

 大切な人を亡くしたときに生じる苦痛のことを「悲嘆(グリーフ)」と言います。悲嘆は、自然な感情の変化で誰にでも起こります。大切な人の死の直後には、強い衝撃とともに、「まさか」という死を否定する気持ちが起こります。その後、数週から数カ月にわたり、焦燥感や罪悪感、故人への執着など、自分ではコントロールできない嵐のような感情が起こります。この時期に、不眠や食欲不振、疲労感などの症状も出てきます。数カ月から数年で、悲しみを伴いながらも、故人との楽しかった思い出を思い出すことができるようになったり、様々な活動への興味を取り戻し、新たな役割を務めることができるようになったりします。たとえ悲しみが強い状態に陥ったとしても、多くの人はつらい時期を乗り越えて行くことができます。故人のことを思うと悲しみがあふれてくる状態から、徐々に楽しかったことなど大事な記憶を、自分の中にうまくとり入れていくことができるようになります。

どんなとき受診?

 ――医療機関を受診する必要があるのはどのような人ですか。

 「悲しい」という気持ちになるのは、誰にでもありますがそれが一日中続いて仕事ができない、家事が全くできないなど日常生活が送れないという人がいます。食べられない、眠れないというのも典型的な症状です。食べられなくなり、仕事ができないほどに体力が低下してしまうなど、悲しみが強すぎていつも通りに生活を送ることができない状態が続く場合は、「家族ケア外来」のような専門家のサポートを受けることを検討してください。

 ――お酒に頼ってしまうという話もよく耳にします。

 特に男性の場合、悲しくて眠れない、とアルコールの量が増えてしまう人が少なくありません。アルコールを飲み過ぎて、食べなくなって体力が失われていく場合もあります。毎日飲み、アルコール依存症になってしまう人もいます。外来を訪れるのは圧倒的に女性が多く、男性は相談することが苦手です。周りが気遣って、「専門家に相談してみたらどう?」と声をかけることも重要です。

 ――どの診療科を受診すればいいのでしょうか

 診療科でいえば、精神科です。「遺族ケア」「家族ケア」「グリーフケア」などとホームページに掲げている病院や診療所ならば、なお専門的な対応ができると思います。がんで家族が亡くなった場合は、病院内にある「がん相談支援センター」に、どこで対応ができるかと相談してみてもいいでしょう。

薬や認知行動療法

 ――どんな治療が受けられますか

 うつ病と診断されるような状態で、抗うつ薬が必要と判断される人もいます。一方で、定期的に通う必要がある人は、多くありません。受診時には「この悲しみが永遠に続くのではないか、自分はどうなってしまうのか」と不安を抱えています。まずは、一般的な悲嘆の経過を伝えます。自分の悲しみが特別おかしいものではなく、つらさの見通しがつくことで安心する人も少なくありません。その上で、何回か受診が必要な人は、悲しいときに、自分に起きていることを客観的に見られるように、考え方を整理する手伝いをします。悲しみをコントロールできるように、工夫すべきことを一緒に考えます。

 より継続的な支援が必要な方には、苦しい思いに共感する「支持的精神療法」を基本に認知行動療法なども組み合わせながら対応します。

 ――周囲はどのようにしたらいいでしょうか。

 元気そうにしていても、本人にはとてもつらいことです。同居する家族や、身近な友人が見て「元気なさそうだな、食事してなさそうだな」と感じることがあれば声をかけてみてください。

 その際には、話をよく聞くことが重要です。これだけは絶対にやってはいけないのは「興味本位で話を聞くこと」です。自分が知りたいことを聞くのではなく、その人のことを心配に思って真摯(しんし)に話が聞けるかどうかです。本人から、「大丈夫だ」と言われてしまうこともあります。その場合には、「いつでもあなたの話を聞けるからね」と伝えてほしいと思います。

 答えがでない難しい話題でも、「しょうがないよ」「いつまでもくよくよするな」と話を受け止めずに逃げたり、無理やり解決しようとしたりせず、避けずに向き合い、悲しみを理解する、ということが大切です。また「もっと前向きに」とか「外に出なきゃ」「こう考えたらいいと思う」などと安易な説得や価値観を押しつけると、わかってもらえないと、誰にも話さなくなってしまいます。あくまで遺族の希望を尊重してください。

◇ご意見・体験は、氏名と連絡先を明記のうえ、iryo-k@asahi.comメールするへお寄せください。

<アピタル:患者を生きる・眠る>

http://www.asahi.com/apital/special/ikiru/(聞き手・月舘彩子)