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魔法のやかん

 ラグビー・ワールドカップ(W杯)1次リーグB組のニュージーランド(NZ)―ナミビアは、世界ランク1位と、世界ランクが出場チーム中で最も低い23位の対戦だった。

 大差がついた試合で、NZのハンセン監督が思わず左腕を突き上げたのは終了間際だった。「特別なトライを取ってくれた。ガッツポーズなんてなかなかやらないが、ついやってしまった」。後半38分、相手ボールのキックオフを確保すると、自陣から攻めた。芸術的なパスをつなぎ、ペレナラが相手2人を振り切り左隅に飛び込んだ。ナミビアのデービス監督まで「私も席を立ちそうになって見ていた」と賛辞を送った連続攻撃だった。

 ナミビアは6大会連続出場だが、まだ、勝ち星がない。2003年大会では豪州に0―142で惨敗した。前回初めてNZとの対戦が実現し、14―58で敗れた。唯一のトライを決めたのが、主将のデイゼルだ。「今でもあのトライのことを聞かれる。大きな経験になった。このチームに多い若い選手にぜひ、同じような機会をつかんでほしい」。期待を胸に2度目の対戦に挑んだ。

 ペナルティーゴールで先行。すぐにトライを返されたが、前半35分過ぎまでは、1点差で追いすがった。歯科医に銀行員……。ナミビアはアマチュア選手も多いが、グラウンドに出れば、プロもアマも関係ない。デイゼルは「相手の強みなど考えず、自分たちの試合をすることに焦点をあてた」。思わぬ苦戦となったNZのハンセン監督は「自分たちの方向性をもう一度、確認する必要があった」。

 後半、ナミビアは精度を保てなかった。結局、ノートライに終わり、9―71。前回より点差は開いた。それでも、最後まで王者を本気にさせた。11個目のトライの後、ハンセン監督がみせたガッツポーズはその表れだろう。

 ナミビアのデービス監督は「W杯で戦うことで経験を積み、レガシーを残そうとしている。4年間、一貫した準備ができた。今までにない若手で臨み、選手の育成を考えている」と言った。アフリカからのW杯参加は南アフリカとナミビア。世界、南アとの差はまだ、大きい。黒人で初めて南アの主将を務めるコリシは「適切なコーチングとその機会を与えることが大切。ナイジェリアなどには結構、大きな人もいる。アジア初のW杯でさらにラグビーは広がる。他のアフリカ勢も出られれば素晴らしい」と躍進に期待を寄せている。(森田博志)