妻に先立たれ、夫は不眠に やせ細って受診した遺族外来
【まとめて読む】患者を生きる・眠る「遺族のうつ」
長年連れ添った妻を亡くした男性(81)は、胃の痛みや動悸(どうき)、不眠など原因不明の体調不良に襲われます。1年も経たないうちに、体重は10キロも減少。「このまま逝ってしまってもいい」と気力を失いかけたころ、家族のすすめで「遺族外来」を受診し、ようやく改善に向かいはじめました。
妻の死、体調崩し激やせ
「胃が痛くて眠れないんだ」
男性が周囲にそう訴え始めたのは、妻の四十九日が過ぎた頃だった。
最初の頃は気を張っていたようだった。同市に住む長男(60)がそばに付いていようとしても、「もう帰っていいよ」と言った。しかし、日に日にやせていくのが長男は気になった。
男性は近くの胃腸科へ行き、胃薬をもらった。だが、のんでも回復しない。眠れない。頭が痛い。動悸がする。めまいがする――。症状はどんどん増えていった。
別の医療機関で検査を受けても、血圧が少し高いくらいで「ほかに異常はない」。どこに行っても「年だからですよ」と言われるばかりだった。
のむ薬ばかりが増え、調子はいっこうによくならない。がんを疑って画像検査も受けたが、病気は見つからなかった。「医者は異常なしと言う。でも、何かがあるんだ」。男性は不安な気持ちを、長男らにそう訴えた。
妻が89歳で亡くなったのは、2017年11月。その後、家事代行サービスを利用し、食事を作ってもらっていたが、食べる量は激減した。長男らには「食べている」と言っていたものの、食べていたのは、ご飯は一口か二口程度。半年で体重は10キロ減った。
「もうこのまま逝ってしまってもいいな。疲れちゃったよ」。ベッドに入っても眠れない。何も考えられず、動悸がした。近所の内科で精神安定剤として出された抗不安薬をのむ日々が続いた。
18年6月ごろ。長男の妻が書店で、「遺族外来」と表紙にある本を見つけた。「お義父さんと同じ症状の人がいるみたい」。すすめられて読み始めた長男は驚いた。紹介されている患者の症状が、父とそっくりだったからだ。
「ここへ行けば、いい方向に改善できるかもしれない」。すぐに著者の大西秀樹(おおにし・ひでき)さん(59)が担当する遺族外来のある埼玉医大国際医療センター(埼玉県日高市)へ電話した。
すると、1カ月後に受診できるという。「もうどこへ行っても一緒だ」。渋る男性を長男が説得し、車で3時間かけて向かった。
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