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 東京・浅草寺の境内は彼のスタジオだった。1973年から定点観測で市井の人を撮影してきた写真家鬼海(きかい)弘雄さん(74)のライフワークが昨年、完結した。最後のシリーズ「PERSONA 最終章」をまとめた初の展覧会が、奈良市の入江泰吉記念奈良市写真美術館で開催中だ。

 朱塗りの壁の前で撮りたい人が通るのをじっと待ち、声をかけてカメラを向けるのは日に1人か2人。ほとんどが一期一会だが、中には十数年を経て再会した人もいる。白黒のポートレートは、絶妙かつ時に唐突な意外性を帯びた短い文章とともに、外向きの顔や肩書の奥ににじむ被写体の人柄と人生を写し出す。

 例えば、入れ墨をさらけ出しレンズをにらむ「クールミントガムをくれた青年」、肩に相棒を乗せた「猫(16歳)に英単語で話しかける税理士」などもそう。「先が尖(とが)った靴を履いている男」は、写っていない部分の装いまで確信させる説得力に満ちている。「三日ごと、イネ科の草で三匹のバッタを作りかえていると話す人」に至っては、帽子の上に王冠のごとく君臨する昆虫の不思議さに目が離せない。

 白塗りの顔にちょびひげを描いた「浅草芸人プチャリンさん」は、鬼海さん自身が展示の最後の一枚にと指定した。「ペルソナ、仮面ですね。人は誰しも仮面を背負っていて、それも年齢とともに変わっていく」と、自らも写真家である百々(どど)俊二館長は話す。

以前は県庁に勤めていたという鬼海弘雄さん。記事の後半では、なぜカメラマンになったのか、人を撮り続ける理由は何か、などについて語っています。

 10月30日まで。21、23、28日休み。一般500円など。同館(0742・22・9811)。

写真と文学は似ている 鬼海弘雄さんインタビュー

 浅草寺に着くとまず、背景となる境内の壁をチェックする。汚れていたら拭いて、後は撮るべき人が現れるのをじっと待つ。4、5時間ねばっても、一枚も撮れないまま帰る日が大半という。

 どんな人を撮りたいのか。「変…

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