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 「男は仕事」という意識が社会に根強い一方で、子育てや家事に率先して関わる父親は、仕事と家庭とのバランスに葛藤を抱え、時に孤独感を覚えています。父親同士でつながったり、経営陣が働き方を工夫したりといった実践も各地にあります。父親の子育てを、より日常の風景にしていくため、何ができるかを考えます。

父たちの集い 孤立和らぐ

 朝日新聞デジタルのアンケートでは、職場や家庭で十分理解されない父親の声が寄せられました。父親同士のネットワークが、そうしたモヤモヤを和らげる場になっています。

 「おおいたパパくらぶ」も父親の集まりです。大分県が2010年度と11年度に実施した父親講座がきっかけで、有志が立ち上げました。定期的に子育て支援施設で絵本の読み聞かせをしたり、月1回語らう「パパテーブル」を開いたりしています。メンバーの出入りは自由。現在は十数人が活動しているそうです。

 発足メンバーの大西正久さん(51)は2児の父親です。PTAの役員などをしましたが、自分の子以外と接する機会はほとんどなく、「父親という存在が、もっと地域の中で見えることが大切だと思いました」。絵本の読み聞かせを通じて、そうした機会を作りたいと考えたそうです。

 4代目となるくらぶの共同代表で会社員の男性(45)は、小学6年と3年の娘がいます。くらぶに入ったのは4年ほど前。送り迎えや帰宅後の食事や家事など、子ども中心の生活を送っている時でした。ただ、会社の上司には理解されませんでした。ある時、体調を崩した娘のお迎えを申し出ると、「近所の人に預けて働け!」と言われました。仕事と家庭と。周囲に同じような父親はおらず、孤立感を深めていました。

 「父親だって子育てをしたいと思う人がいるでしょう。母親が仕事をしたいと思うように。でも、自分は圧倒的なマイノリティーでした。『自分がおかしいのかもしれない』とすら思っていました。『何かにすがりたい』と思うほど、追い込まれていました」

 そうして、「くらぶ」の門をたたき、同じように子育てする父親に安心感を覚えたそうです。

 月1回のパパテーブルでは、こうした父親の思いが吐露されます。時には、「小学生になったら、子どもがよそよそしくなった」「幼い子どもがお風呂を嫌がる。どうしたらよいか」と具体的な悩みが出ることも。共感し合ったり、体験をもとにアドバイスをしたりするそうです。

 同じく共同代表で、7歳から1歳まで3児の父親の山口慎介さん(39)は「パパ友がほしかった」と話します。バンドマンでしたが、活動に割ける時間もなく、人間関係が閉じていく感覚がありました。くらぶの活動に参加し、社会との接点を感じたと言います。家事や子育ては妻に頼りがちだったそうです。「周囲の父親に刺激され、意識も行動も変わりました。振り返ると、『ダメダメな父親』でした」

 共同代表の男性はこう話します。「父親同士の集まりは、家庭と仕事に加え、第3の居場所になりました。ほかの人にとっても、そうした集まりになればいいなと思います」(高橋健次郎

パタハラは経営のリスク ワーク・ライフバランス 小室淑恵社長

 男性の育児休業取得は6%と低調です。最も大きい要因は会社における同調圧力にあると思います。これまで、企業は1人が抜けると仕事が回らないような属人的な働き方をしてきました。全員そろっていないと成り立たない働き方だったのです。そのため、会社は「絶対休むなよ」と全員に対して厳しく圧力をかけ、休んだやつは左遷だと。

 男性が育休から戻ると、仕事を減らされたり、急な配置転換を言われたりする「パタニティーハラスメント」も大きな問題になっています。パタハラをする上司の中には「自分だって、これまで家族を崩壊させるような長時間労働や急な転勤を耐えてきた」という思いがあります。そして無意識に、自分もいろんなものを失ってきたからという理由でこの働き方を正当化してしまうのです。パタハラの連鎖が起きているのです。

 そのような働き方にも耐えることで経済発展してきた歴史はたしかにあります。

 しかし、働き手の環境は変わっています。かつてと異なり日本は労働力人口が不足しています。そうした中、育児をしながら介護もしているような人だっています。女性も労働参画が求められるようになりました。本人が全力で働きたくても、時間外でやらなければならないものがたくさんあり、ジャグリング状態なのです。

 現状を直視できないままマネジメントをした。そうして延命してきたものが破綻(はたん)しようとしているのです。育児・介護・がんの治療など、様々なないがしろにできない事情を抱えながらでも、安定したアウトプットをだせるような組織の仕組みづくりこそが急がれるのです。

 経営側に注がれる視線も、変わりました。化学メーカーの元社員の妻が、夫がパタハラを受けたとツイッターに投稿し、話題となりました。私が注目したポイントは、そのとき株価が下落したということです。数年前であれば、男性の育休を取らせなかったというニュース程度で株価が下落することはありませんでした。投資家にとってそれほど重要なテーマだという認識がなかったからです。

 しかし、ここ数年で労働時間の管理や女性管理職比率などを加味して投資するESG投資(環境や社会問題への配慮を評価し投資すること)が当たり前になってきています。株価が反応したことは、経営者にもインパクトを与えたと思います。まさに「働き方って経営課題なんだ」と、人事や労務担当だけの問題ではない話だと経営者は考えるべきです。(聞き手・吉田貴司)

パパ社員全員が育休

 国は取得を推進しながらも、人手や経済的な面から十分には広がっていない男性の育児休業。そんな中、社員数約150人の中小企業が昨年、取得率100%を達成しました。その秘密を探ってみました。

 信濃川に沿った田園が近くに広がる新潟県長岡市のサカタ製作所。工場や倉庫、空港といった大型建築の屋根金具などを製造する同社では昨年、子どもが生まれた男性社員6人全員が3週間以上の育休を取得しました。

 「2016年まで、育休取得はほぼゼロ。実績作りのために取らせた年もありましたが、日数も短く中身が伴わなかった。『真剣にやろう』と16年暮れから、全社的に取り組み始めました」。総務部長(現・技術開発部長)だった小林準一さん(52)は振り返ります。

 まず行ったのが、「休めない雰囲気」の解明。総務部の女性社員2人を「推進スタッフ」に任命し、育休を取得しなかった男性社員らに、聞き取りをしました。自分の仕事が忙しくて休めない▽上司や仲間の手前、休みづらい▽評価が下がる▽休んだら経済的に困る、などといった社員の本音が浮かび上がりました。

 育休を促されても、売り上げも求められるような矛盾した会社の空気。それを打破したのが、坂田匠社長(59)の「イクメン推進宣言」でした。全社集会などで育休を取得した社員や推進した管理職を高く評価するとした一方、「業績が落ちても構わない」と明言。「『何を言うか』より『誰が言うか』。社長のメッセージで方針が明確になりました」

 宣言後は男性社員が妻の妊娠を報告すると、上司や役員を交えて育休取得に向けた面談を実施。業務引き継ぎを会社幹部も共有することで、休めない雰囲気を払拭(ふっしょく)しました。また、給付金や補助金などを含めた給与シミュレーションを示し、収入面の不安も緩和しました。

 昨年末と今年2月に育休を取得した青柳剛志さん(34)は「妊娠の報告をすると上司からは『いつから取るの?』と言ってもらい、2度取得ができる特例も会社が説明してくれた。何の心配もなく育休が取れた」と話します。

 小林さんが男性の育休取得にこだわるのは、サカタに転職する前の「会社人間」としての苦い経験です。「子ども2人が小学生の時に、中国に1年間単身赴任したり、帰宅が毎日午後10時を過ぎたりするなど、仕事優先で家族を顧みませんでした」。サカタに移ってからは、社員目線の会社を第一に働き方改革に着手。1人あたりの平均残業時間(1カ月)は14年の17.6時間から18年は1.1時間に減り、育休推進の機運につながりました。

 小林さんによると、育休推進の効果は社内外で表れ始めています。社員の長期休暇を前提とすることで、業務の見直しや特定の人が仕事を抱える属人化の解消が起こり、生産性が向上。懸念された主要事業の売り上げも堅調です。新卒採用でも、子育て環境を重視する学生へのアピールとなり、応募が増加しました。「男性の育休により、社員と組織を活性化させ、業績向上を狙う。取得100%は経営戦略です」(丹治翔)

時代遅れの言葉、まだ夢物語

 朝日新聞デジタルのアンケートに寄せられた声の一部を紹介します。

●知らなかった世界を知る

 育児は自分の知らなかった世界を知る良い機会になっています。色々な人生経験を積むことで、コミュニケーションや仕事に生かす機会もあるかと思っています。また、女性が全て家事が得意というわけでもなく、逆に女性の方が仕事が得意という場合もあるかと思います。「イクメン」「ワンオペ育児」など育児に関する言葉は、男性女性に関わらず、社会の仕事に対する考え方と育児に対する考え方が共に変わらないと変わっていかないでしょう。早く、これらの言葉が古い言葉、懐かしい言葉として使う時代が来ることを願っています。(兵庫県・30代男性)

●環境整備に踏み込んで

 イクメンという言葉から「育児に携わる稀有(けう)な男性」というニュアンスを感じるし、育児は女性のやることという考え方を強めているようにも感じる。私が参加した両親学級では7割くらいの男性が家庭のことに積極的で、育児に携わることも当然だと考えているようで、従来の性的役割分担を是としない層が広がっていた。「イクメン」の発するニュアンスでは、些(いささ)か時代遅れではないか。育休義務化の話も出ているが、企業に義務を課すという意味で必須だと思うし、少なくとも産後1カ月間等期間を課すことも必須だと思う。加えて国には、平日に行われる両親学級への参加や保活のための休暇を男女共に与え、育児できる環境整備に踏み込んでほしい。(東京都・30代女性)

●無意識の偏見を恥じた

 イクメンという言葉自体には、良い印象がある。でも今後は軽々しく誰かに対してイクメンという言葉は使わないと思う。その理由は、

 数カ月前、レストランでの食事会に参加。とあるご夫婦の旦那様がお子さん(5歳くらい)をトイレに連れて行った。普段から子育てしているのが垣間見え、そのあまりの自然さに衝撃を受け「イクメンですね」と思わず言ったら「いや、トイレに連れていっただけです」と表情の無い顔で返事があった。褒めたつもりが、違う意味で伝わってしまったのではないかと冷や汗が出た。あと、男性が育児することをどこかで特別視している自らの無意識の偏見を恥じた。黙っていればよかったと後悔するも、時すでに遅し。(海外・30代女性)

●カバーする人にも生活ある

 イクメンまたは男性が育休を取ること自体は良いことですが、それを成り立たせるために支えている人がいることがあまりにクローズアップされなさすぎだと思います。育休を取った男性のご家族(奥様)にとっては助かる制度だと感じますが、その男性のカバーをしているのは女性社員という場合もあります。お互いさまという精神は大切ですが、それならばカバーする人にも家族や生活があるという点で、お互いさまだと思います。(山口県・40代女性)

●周囲の目に敏感

 出産後に妻が体調を崩して入院。そのため夫である私が急遽(きょ)育休を頂き、初めての子育てをすることになりました。家族の力を借りながら何とか育児は出来たものの、気分転換や子の予防接種などで子と2人で外に出ることになぜか抵抗がありました。恐らく周囲からの目線に敏感になってしまったのかもしれません。なぜ母親がいないのか? あの家庭はどうしたのか? と思われていないかと余計なことばかり考えてしまいました。もっと身近に育休を取っている父親がいれば…と。(神奈川県・20代男性)

●育休より定時帰宅を

 イクメンという言葉、周りではあまり聞かないので、もう死語なのかと思っていた。

 育児に協力的なことをわざわざアピールしてくる人に対しては、イクメンですね。と安易に言ってしまうかもしれない。他にかける言葉が思い付かないから。

 男性の育休取得義務化については、育休を取っても子育てに非協力的。夫と子ども2人分の世話をすることになり、かえって妻の負担が増えてしまう等の場合もあると思う。ワンオペ育児も大変だが、それ以上に夫が家にいるのに何もしてくれない。という状況の方がより辛い。

 育休を取りやすい仕組みは必要だが、義務化よりも、毎日定時で帰れて、残業なしでも生活していけるだけの給料の方が必要だと感じる。(愛知県・20代女性)

●夫には出世望む

 会社の対応が心配です。女性でも育休明けに、育休前と同じ職場に戻れないこともあります。まあ、異動だと思えばいいのかもしれません。どちらかというと、夫には出世してほしいので、育休を取ることにより、同期に後れを取ることがあれば、その方が嫌ですね。(兵庫県・30代女性)

●まだまだ夢物語

 41歳の男性です。一人息子は幼稚園の年少さん。妻は専業主婦。私は管理職で毎晩サービス残業、休日も職場から電話がかかってくる状況です。妻の両親は遠方かつ高齢、私の両親は熟年離婚をして疎遠な状況です。職場に育休制度はありますが、 そもそも公休すら満足にとれていないのに、育休などまだまだ夢物語。まずは中間管理職の仕事量を減らすべきかと私は思います。(群馬県・40代男性)

●強制はおかしい

 日本人男性の仕事に対する姿勢は、勤勉で誠実、そのお陰で日本では清潔で便利で安心な暮らしが出来ていると思います。仕事に誠実になればなる程、家庭の事に考えが及ばなくなるのは致し方のない事だと思います。私に重きをおけば公が疎(おろそ)かになる、日本人の仕事に対する考え方と諸外国では大きな隔たりがあるのです。日本人の文化を大切に考えると、分業制が一番理にかなっていると思います

 仕事といっても色々とあります。すぐに代わりが出来る仕事、その人でないと出来ない仕事、働きたいと思っている男性にまで、育児休暇を強制する世の中であっては、おかしいと思います。(広島県・50代女性)

●育休義務化すべし

 男性の育休取得を義務化するべき理由は、職場における男女差別をなくすため。女性が育児を理由に差別されてきた歴史があります。今度は、男性の育児参加なしに、女性に仕事と育児の二重負担が押し付けられているので、そうならないため(男女同じ土俵に立てるように)男性の育休取得を義務化することはよいことと思います。なお、定着すれば少子化対策にもなります。男女ともに働き、子育てをできる住みよい社会を望みます。(大阪府・50代女性)

●不満は違う?

 「イクメン」という言葉自体に違和感あります。そんなに特別扱いされる話では無いように思います。育休については、それぞれの会社の規定や従業員人数によると思いますが、個人的にはその期間仕事に穴を開ける訳なので、戻って来た時に、その間頑張っていた人と同じポジション、仕事内容、給料等(など)を望み、そうならなかった場合不平不満を言う人は違うと思います。(東京都・40代女性)

●職場には不満

 奥さんが専業主婦でも、育児のために休む男性は多く、最近の奥さんは守られているなあと時代の変化を感じます。しかし、子供ができない職場の人や独身者には、不快感も渦巻いているのは確かです。社会全体の子育て風潮になるにはまだ10年はかかりそうです。(新潟県・50代女性)

     ◇

 6カ月の育児休業と、その半年後に1年間の単身赴任を経験しました。育休中は過剰に「イクメン」のように扱われ、単身赴任中は育児をしたい自分の気持ちにふたをし――。「なぜ自分はもっと自然に育児ができないのだろう?」というモヤモヤが募っていきました。

 モヤモヤの正体をまだつかめておらず、なんとか言語化してみようという試みの最中です。まずは向き合い、語るところから。1400以上の声をいただき、その思いを新たにしています。(武田耕太)

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