台風上陸直前、厳戒態勢で備え 列車運休、都心は閑散
台風19号の上陸が想定される地域は、厳戒態勢で暴風雨に備えた。3連休の初日にもかかわらず、宿泊施設のキャンセルが相次ぎ、列車の運休で行き場を失った人も。都心のターミナルも人影はまばらだった。
台風15号の爪痕が残る千葉県館山市、南房総市、鋸南(きょなん)町は12日朝から一部の避難所が満員状態になり、急きょ新たな避難所を設けた。
館山市では午前8時時点で、台風15号時の避難者55人の10倍以上の773人が避難。同市中心部の避難所となっているコミュニティセンターは廊下まで人があふれた。近くに住む鈴木あゆみさん(38)は家族5人で朝から避難。「避難所なら安心できると思ってきたけど、こんなに人がいるとは思いませんでした」と困惑した様子だった。
相模湾に面した静岡県伊東市では、12日未明から強い雨風が続く。ふだんの週末は釣り人らでにぎわう伊東港にも濁った波が押し寄せ、人影はなかった。国道沿いの樹木は強風にあおられ、葉が道路上に散乱していた。
港のそばのコンビニエンスストア「セブン―イレブン伊東ベイサイド店」も客はまばら。男性店員は「今日はさっぱりです」とあきらめ顔だ。
湾に臨む「道の駅伊東マリンタウン」は12日、全館で休業。施設のドアは強風で割れないよう粘着テープで補強され、ドアの下には、ぞうきんが敷き詰められていた。
温泉地として知られる市内のホテルでは、連休中の宿泊のキャンセルが相次いでいるという。老舗ホテルの従業員は「観光業だと、とりわけ3連休に直撃されるのは正直つらい。一気に売り上げが落ち込んでしまう」と嘆く。
伊東市は11日夕から市内に避難所を開設。12日午前7時現在で、240世帯365人が避難している。市役所の会議室には90世帯148人が食料や飲み物を持参して避難。市は毛布を配るなどした。
東海道新幹線、在来線ともに運休となったJR静岡駅(静岡市)では、行き場に困って座り込む人もいた。大阪府の女性(36)は夜行バスで早朝に駅に到着。同県富士市の実家へ向かうつもりだったという。「母に車で迎えに来るようお願いしたが、道の通行止めもあるみたいで心配」と疲れた様子だった。
静岡県のまとめでは、12日午前10時半の時点で、伊東市や下田市、浜松市などで1629世帯3027人が避難している。
JR東京駅では、計画運休にむけた準備が進められていた。駅員によると、利用客はいつもの20分の1ほどだという。
オーストラリアから家族4人で観光に来ていたケビン・マクガンさん(42)は大きなスーツケースを携えて、成田エクスプレスの乗り場を目指していた。帰国日の予定は14日で、12~13日は京都観光のつもりだった。だが、東海道新幹線が終日運休になったため、今のうちに空港に向かうことを決めたという。「空港周辺のホテルは満室で、まだ寝床を確保できていない。空港で2泊するかな」
盛岡市の今野道代さん(63)は、13日夜に横浜であるラグビーワールドカップの日本代表戦を観戦しに来た。ただ代表戦が実施されるかどうかは、試合当日に決まる。「試合がなかったら無駄足になり、ホテルの出費まで発生してしまう。でも、仕方がありません」と話した。
新宿駅(東京都新宿区)も利用客はまばらで、地下街の多くの店はシャッターが閉まっていた。
「運休が早まる可能性もあると思って早く来た。電車が動いていて安心した」。13日に商談でベトナムに向かう予定だという東京都三鷹市の貿易会社長、小松富成さん(57)は、計画運休を知って成田空港へ向かうのを1日前倒ししたという。「事前に運休のめどを知らせてもらえたので、余裕を持って行動できた」とほっとした様子だ。
小田急線の立て看板を見ていた、さいたま市緑区の牧師、岩瀬礼さん(47)は13日に神奈川県綾瀬市の教会で礼拝の仕事があるため、電車が動いているうちに移動しておくことにしたという。「13日の礼拝も台風の状況によっては中止にせざるを得ないかも知れない」
石川県輪島市の専門学校生の女性(18)は都内で遊ぶため、深夜バスでこの日朝、新宿にやってきた。「前から決まっていたので来たけど、ホテルに缶詰めかな」と肩を落としていた。
台風15号で被害の千葉・館山でも備え
台風15号で大きな被害を受けた千葉県館山市では、12日朝から多くの住民が避難所に集まった。一部の避難所では満員状態になり、市は急きょ別の避難所を設けた。
館山市では午前8時時点で、台風15号の避難者数55人の10倍以上の773人が避難。特に市中心部の避難所となっているコミュニティセンターは廊下にまで人があふれかえった。避難してきた人たちは、心配そうにテレビを見たり、家族と話したりして過ごした。
近くに住む鈴木あゆみさん(38)は夫の俊彦さん(40)と3人の子どもたちと朝から避難。あゆみさんは「前回の台風で子どもたちも怖がっていたので、避難所なら安心できると思ってきた。ただ、こんなに人がいるとは思いませんでした」と話した。
前夜から避難している人は疲労の色をにじませていた。長女と母と避難してきた40代女性は「避難所の環境は慣れず、寝られなかった。停電は覚悟しているが、家族の身の安全を確保できるようになったら早く帰りたい」と語った。(今泉奏)
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