第10回「白米2キロ買ってきて」尽きぬ食欲、ウナギ弁当完食
僕のコーチはがんの妻 第11話(全16回)
妻ががんになり、記者である僕への料理指導が始まりました。医師から余命を告げられても、食の話は絶えません。妻のブログのイラストとともにつづります。
2018年4月27日、医師から余命を告げられて病室に戻ると、妻は葬式の話をはじめた。
「香典や供花はお断り。会葬御礼は私の好きなユーハイムのビスケット。『G線上のアリア』を流してほしい。お棺にはバイオリンの楽譜と水色のワンピースを入れて」
「輪島塗は入れないで。人間より器は長生きだから。でも、新しい彼女ができたら二つずつじゃ気分よくないじゃん。そうなったら処分したらええ」
「不思議だね。輪島の器は語ってくるよね。飲みやすいでしょ、軽いでしょ、丈夫でしょ、口当たりがいいでしょって。おみそ汁もおいしく感じるね」
話題はこれまで暮らしたまちの食べ物に移っていく。
「松山は山菜とか面白かったね。松江はやわーい味。奥出雲のソバ畑も楽しかったぁ。輪島は楽しいけど寒いし、しょっぺー(塩辛い)。輪島塗がそろってだんだん料理がうまくなってきたのになあ」
「手抜きばかり考えてたのに今はお料理をしたい。アジの南蛮漬け、前はぜいご取ってたけど、今は内臓をちゃっと取るだけや。そんなことに慣れるのに20年かかったね」
「新じゃがのコロッケとか、マカロニグラタンもつくりたいね。能登のハタハタの甘露煮と一緒に夏野菜を炊いて、ひゃっこくして食べたい。ビーフシチューもつくりたいね。すね肉はいいヤツを買ってフランスパンも買おうね。ラタトゥイユを玄米の上にのせてチーズをのせて焼くだけでもおいしいよね。鶏ゴボウごはんもつくりたい。ミツル、きょう帰りに白米2キロ買っておいて……」
「輪島の祭りの夜に食べるおすしとか、祭りのお呼ばれの料理もおいしかった。くっそー、冬に行くぞ、能登!」
紙おむつがはけない
僕は泣きながらうなずくだけだった。
血液の中のたんぱく質の一種…
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