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 日本のマラソン史に、酷暑が招いた事故として印象を残したレースがある。1995年9月に開催された「ユニバーシアード福岡大会」。トップを独走していた女子選手は残り3キロでフラフラと蛇行を始め、コースを外れながら逆走。迷走した末に地面に倒れた。30度近い気温に加えて、高湿度が招いた悲劇だった。

 「五輪のレースで亡くなった選手が出たら、誰も喜べません。金メダルを取った選手も、です。自分の身に起きた過去の事例、経験を生かして欲しい」

 熱中症で倒れた24年前のレースを振り返りながら、そう語ってくれたのは鯉川なつえさん(47)。現役引退後は母校の順大に戻り、熱中症などを研究。現在は順大スポーツ健康科学部教授で陸上部女子監督を務める。東京五輪については、高温多湿の環境下でレースをしなければならない選手たちの身を案じてきた。そんな矢先に飛び込んできたマラソン、競歩の猛暑対策としての会場変更。国際オリンピック委員会(IOC)は、札幌への変更を検討中だ。この判断をどう見たのか。鯉川さんに聞いた。

 ――IOCは「札幌実施」の検討を発表した。

 本番が迫ったこのタイミングでも、開催地の変更が検討され始めたことは喜ばしいこと。選手は4年に一度の舞台にすべてをかけています。競技運営側は、気温や湿度など高い確率で好条件がそろい、選手が安全にレースができる環境を考えるべきです。札幌開催に限らず、時間の変更も再考してもいいかも知れません。

 ――時間の変更ですか。

 現状ではマラソンのスタートは午前6時。気温は日中に比べて低いのかも知れませんが、問題なのは選手がきつくなるレース終盤に日が上がって、スタート時より気温が上がってしまうこと。少しでも安全性を高めるために、開催地変更に加えて、日が落ちていく夕方から夜にかけての実施を検討してみてはどうでしょうか。ただ、カタール・ドーハであった世界選手権のように午前0時ごろにスタートするのでは、観客が少なく選手のモチベーションが下がってしまいます。

 ――24年前のレースで自身の…

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