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 山間部が多い群馬県内では台風19号による土砂崩れや崩落で道路が寸断され、嬬恋村、南牧村、神流町の宿泊施設や集落では一時、計約250人が孤立した。孤立解消までの約2日間、どのように過ごしたのか。

情報提供心がける 嬬恋・休暇村

 「30年のホテルマン人生で初めての経験でした」。嬬恋村の鹿沢温泉郷にあるリゾートホテル「休暇村嬬恋鹿沢」の支配人、石川哲志さん(54)はそう振り返る。12日夜からほぼ2日間、宿泊客52人とスタッフ24人が孤立した。

 記録的な雨が続いていた12日午後6時ごろ、停電が起き、電話も通じなくなった。インターネットも使えない。頼みの県道も、吾妻川支流の湯尻川の増水や大雨でえぐられて陥没し、通行不能に。それでもパニックは起きなかったという。

 館内は自家発電に切り替え、食材を保管する冷蔵庫や冷凍庫の電源を確保。照度は低めながらも客室や廊下などにも非常用の明かりをつけた。ガスはプロパンだったので調理はできた。沢から引いている自家水源は濁って飲用には適さなかったが、ボイラーは使え、給湯はできた。飲み水は2日分を備蓄してあり、13日には自衛隊のヘリコプターが補給の水を届けた。

 心がけたのは情報提供。ロビーに置いたテレビでニュースを見られるようにした。ホテルの敷地内で携帯電話がつながる場所を確認し、役場などから情報を入手。説明会を随時開き、ホテル側の態勢や食事・入浴時間、復旧の見通しなどを伝えた。14日朝には徒歩で村職員が到着。「道路は14日午後4時には通行できる」と伝えられ、宿泊客には安堵(あんど)の表情が広がった。

 ほかにもロビーでコーヒーやリンゴを提供するなど、雰囲気を和らげるよう努めた。そのためか、宿泊客からの不満や抗議は出なかったという。ヘリの着陸時には、着陸場所の駐車場の片付けを浴衣姿で手伝う客もいた。休暇村を離れる前に宿泊客に書いてもらったアンケートには「スタッフがよく頑張ってくれた」といった記述があった。「孤立状態が長く続いたらと不安で、お客様に申し訳なく思っていた。ホテルマン冥利(みょうり)につきる」と石川さん。

 ホテルは当面営業を休止しているが、周辺は紅葉の盛りを迎える。石川さんは「一日も早い再開を目指して準備したい」と話した。(泉野尚彦)

地域の絆 日頃から 南牧・大塩沢

 人口約1800人のうち65歳以上が63・6%。「全国一の高齢化率」で知られる南牧村でも、台風19号で大塩沢の集落が2日ほど孤立状態になった。長野県境の険しい山あいで日頃から助け合って暮らしてきた地域。その助け合いと備蓄で乗り切った。

 大塩沢の下高原地区の区長、田貝新一さん(71)は12日昼、「いつもの台風と違う」と不安になった。自宅前の川は濁流に変わり、巨岩同士が衝突して自宅は揺れた。裏山も崩れた。

 集落は村中心部を通る県道から外れて山あいの細い道を進んだ所にある。住民が12日昼ごろ確認すると、増水と一部崩落で道は通行困難に。49世帯94人が午後から孤立状態になった。

 田貝さん夫婦は夕方、役場の指示で自宅前の集会場を避難先として開所。他の住民のためにも、おにぎり20個とペットボトル24本も持って避難した。近所の一人暮らしの高齢者を自宅に招いて避難させる住民もいて、協力し合った。

 集落内に商店はなく、村中心部に通じる道は住民にとって生命線。台風が過ぎた13日早朝には、元気な60~80代の「集落の若い衆」が集まり、重機やスコップで道から散乱した土砂や枝を除去した。「周りは高齢者ばかりの地域。何かあってからでは遅い」と住民の一人。町による道の応急措置工事もあり、孤立状態は14日午後5時に解消した。

 一帯は過去にも台風や大雪で孤立を経験し、各家庭や集会所は食料や水を備蓄している。停電はなく、ガスはプロパン。断水しなかったことも幸いした。「山に住む者はみんな家族のようなもの。日頃の助け合い、お裾分けが力になった」と田貝さん夫婦は話した。(張春穎、松田果穂)