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カイシャで生きる 第30話

50代の居場所①(全4回)

 56歳で役職定年の対象になった。半導体大手のルネサスエレクトロニクスで、フラッシュメモリーの開発リーダーだった奥山幸祐さん(65)は悩んだ。

 ルネサスの前身である日立製作所に入社し、一貫して半導体の仕事をしてきた。役職定年後の処遇について、上司からこう告げられていた。

 「本社で文書管理の仕事をしてもらうことになると思う」

 会社にとどまれば、開発の現場から離れ、技術者としてのキャリアはまもなく終わる。生きがいを奪われることに等しかった。

 これからどうすればいいのか。自分の得意なものとは一体……。悩み、行き着いた思いは、30年以上も打ち込んできた半導体の仕事へのこだわりだった。

世界に目を向ければ

 当時、ルネサスの経営環境は良くなかった。日立と三菱電機の半導体部門が源流のルネサステクノロジとNECエレクトロニクスが2010年4月に合併して発足。1980年代に世界シェアを急激に伸ばした日本の半導体業界は、バブル崩壊後、米国や韓国勢などに押され、厳しい状況が続いていた。

 ただ、世界に目を向ければ、半導体市場は進化を続けていた。技術革新を起こし、需要を掘り起こせば、ベンチャー企業にも十分にチャンスはあると考えていた。必要なのは、挑戦と努力だ。

 早期退職の募集に応じ、会社を立ち上げよう――。奥山さんは決意した。

役職定年を迎えた時の意識変化についてパーソル総合研究所がミドルシニア世代に聞いたところ(2017年調査)、「やる気が低下した」(38%)や「喪失感、寂しさを感じた」(34%)など後ろ向きな回答が、「気持ちが楽になった」(30%)など前向きな回答を上回りました。奥山さんの場合はどうだったのでしょうか。

 一人では何もできない。気心が知れた同僚らに声をかけると、5人が奥山さんの思いに賛同してくれた。全員が日立出身のルネサスの技術者だった。

 奥山さんは数年前に妻を病気で亡くしていた。悲しみからようやく立ち直りかけた時期でもあった。3人の娘は独立し、父親の責任は果たした。

 決意を固めた奥山さんの頭に、ある人物が思い浮かんだ。日立に入社してから兄のように慕ってきた先輩の長沢幸一さん(72)だ。人柄が温厚で優しく、困ったときは相談に乗ってくれた。人生の節目。「独立することを報告しよう」と思った。

 長沢さんも半導体一筋の技術者だった。ルネサスの製造子会社の社長を経て退職し、大手電子部品メーカーの顧問となり、工場の技術指導などをしていた。

すし店を出るころには…

 2010年の暮れ。東京・国分寺のすし店で、長沢さんは奥山さんから「独立したい」と告げられた。

 「短気を起こしてはいけないよ」

 長沢さんは奥山さんに、ルネサ…

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