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 「子どもの通っている幼稚園が、10月の幼保無償化のタイミングで保育料を引き上げてきました」。読者の疑問や困り事を取材する朝日新聞「#ニュース4U」取材班にそんな声が寄せられた。取材を始めると、無償化に合わせて値上げした施設は全国各地にあった。値上げした園を直撃すると、園長たちが本音を語った。

 「うまいことだまされた印象が消えません」。近畿地方の私立幼稚園に子どもを通わせる30代の女性はため息をついた。幼児教育・保育の無償化は消費増税分を財源に10月から始まり、この幼稚園は保育料を月約2千円値上げした。

 自治体が保育料を決め、その保育料が無料となる公立幼稚園や認可保育所と違い、一部の私立幼稚園は各施設が保育料を決められる。このため、無償化の額には上限(月2万5700円)があり、超えた分は保護者の自己負担となるが、この幼稚園の場合は以前より負担額は少なくなった。

 保護者説明会で園の職員は開口一番、「みなさんいいですね、こんな支援(無償化)があって。私の時はなかったからうらやましい」と話したという。

 女性は「値上げの理由を聞くと、せこいみたいで何も言えなくなった」と悔しがる。「便乗値上げ」感はぬぐえず、モヤモヤ感は残ったままだという。

園長「現場は疲弊し切っている」

 名古屋市内の私立幼稚園は10月から保育料を月6500円引き上げた。「使い道を理事長に聞いてもはっきり説明しない。理事長たちの私腹を肥やすのではと疑ってしまう」と、子どもを通わせる女性は憤る。

 文部科学省は無償化を機に保育料を値上げする幼稚園の有無や値上げの理由を調査。不適切な値上げがあれば指導するよう都道府県などに連絡している。全国の私立幼稚園約7500園が加盟する全日本私立幼稚園連合会も昨夏から4回にわたって、質の向上を伴わない値上げはしないよう加盟園に求めてきた。

 だが、大阪府のある私立幼稚園の園長は「幼稚園の現場は疲弊しきっている。保護者の懐を痛めないこの機会に値上げしなければ、もう限界」と打ち明ける。

 私立幼稚園は保護者からの保育料のほか、都道府県からの私学助成などで運営費を工面している。だが、働く親の増加で保育所に通う子どもが増えていることに加え、少子化で幼稚園の保育料収入は減り続けている。

 この幼稚園は園の積立金を取り崩して運営してきたが、10月から保育料を月2550円値上げした。説明会で園の経営事情も伝え、苦情はまだないという。

 福岡県内のある幼稚園も来年4月から保育料を1050円上げる。園長は「老朽化した建物の整備や、職員の残業代など処遇改善の費用にあてたい」と言う。

 「便乗値上げは良くないが、無償化は保育の質を上げるチャンスだ」。同県内のある幼稚園連盟会長は管内の園長らにそう言ってきた。「保護者に負担をかけることなく保育の質を上げられる。ご理解頂けるなら応援してほしい」

 値上げは認可外保育施設でも確認されており、所管する厚生労働省は9月、理由なく値上げしている施設があれば国への報告と施設への指導を求める文書を都道府県などに出した。

誰のための無償化?識者は

 一体、誰のための無償化か――。そんな疑問を取材した保護者は感じていた。識者はどう考えるのか。

 大阪府立大の吉田直哉准教授(教育学)は「無償化は保護者の負担軽減が目的。不透明な値上げで保護者の理解は得られない」と指摘する。

 一方、経済協力開発機構によると、日本は2016年時点で幼児教育に関する支出の約半分を保護者の私費負担でまかなっていた。

 加盟国の中で2番目に高く、吉田准教授は「就学前教育への公金投入は世界の潮流。無償化は『子育ては親がするもの』という日本人の意識に変化を促し、国全体で子どもを育てる当事者意識を持つきっかけになるのでは」と期待する。

 「その財源は国民の税金。私学運営は本来行政の介入を受けないが、施設側は値上げにふさわしい保育・幼児教育を提供しているか、これからは全納税者からチェックされることを理解するべきだ」(山根久美子、城真弓)

     ◇

 〈幼児教育・保育の無償化〉 すべての3~5歳児と、低所得世帯(住民税非課税世帯)の0~2歳児が対象。2015年4月に始まった「子ども・子育て支援新制度」に移行した幼稚園や認可保育所は保育料が無料となり、給食費やバス代などは別に徴収される。

 新制度に移行していない幼稚園は月2万5700円まで、認可外保育施設の3~5歳児は月3万7千円まで、低所得世帯の0~2歳児は月4万2千円までが無償化される。財源には消費増税分の一部が充てられる。

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