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 茨城県下妻市にある農業用ため池の「砂沼」は、環境省のレッドリストで「野生絶滅」と位置づけられた湿地性植物、コシガヤホシクサの最後の自生地だった。ここで、野生復帰を目指した取り組みが国立科学博物館筑波実験植物園を中心に続けられている。

 コシガヤホシクサは1938年に埼玉県越谷市で初めて見つかった。その後、唯一確認されていた同市内で見られなくなったが、75年に砂沼で再発見された。一定の期間は水没しても生存できるため、春~夏に高く、秋~冬に低くなるという水位変動を利用して生き延びていた。

 だが、渇水への対応で砂沼の水位が一年中高く保たれるようになった94年、1年草のコシガヤホシクサは次世代の種子を残せず姿を消した。

 幸い、その前に採られた種子に由来する個体が、地元の自然愛好家たちの手で育てられていた。その一部が同植物園に預けられ、水位を調整する話し合いを経て、2009年、砂沼への種まきが始まった。

 「12年までの生育状況は良く、野生復帰は順調に進むかと思われた」。当初から関わる国立科学博物館の田中法生・研究主幹は振り返る。だが、その後は花を咲かせ、種をつける個体がどんどん減った。

 17年から試験区を設けて検証した。①生育に適した細かな砂が水辺から沖合に移動している②外来生物の侵入や波力を抑える網がない区画は個体がほとんど残らない、といった状況がつかめた。足踏み状態の中で、底質環境の変化、ミシシッピアカミミガメやウシガエルのおたまじゃくしなどによる捕食といった、原因と思われる事象が整理されてきた。「野生復帰に向けて手がけるべきことはまだ多い」と田中さんはいう。

 越谷市も市の名を冠した植物をよみがえらせようと、14年から市内を流れる葛西用水沿いに試験区を設けて栽培を続けている。試行錯誤の末、昨年、ようやく網の中で、花を咲かせるに至った。「市民の中で知名度は上がってきた。継続的な取り組みを続けたい」と市環境政策課の森衿菜(えりな)さんは話す。

 野生復帰の取り組みが進んだ鳥のトキについて、環境省は今年1月、レッドリストの位置付けを野生絶滅から1ランク下と言える絶滅危惧1A類に改めた。植物でこうした成果はまだ聞かない。コシガヤホシクサでの模索が、いつか実を結ぶことを祈っている。(米山正寛)