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 米軍と自衛隊が共同で使う岩国基地(山口県岩国市)の周辺住民ら約650人が騒音被害の損害賠償や飛行差し止めを国に求めた訴訟の控訴審判決が25日、広島高裁であった。森一岳裁判長は一審・山口地裁岩国支部判決と同様、過去分の被害の賠償のみ認定。控訴審までの期間などを加算し、賠償額を一審の約5億5800万円から約7億3540万円に増額した。飛行差し止めと将来分の賠償請求は退けた。

 高裁判決は、類似の訴訟で賠償が認められてきた航空機の騒音基準「うるささ指数」(W値)75以上の地域で暮らす住民について、看過できない様々な被害を受けていると指摘。2010年5月に基地滑走路が1キロ沖合に移設されたが、騒音被害の減少は一定程度にとどまるとした。

 そのうえで、新滑走路の運用開始前後に分けて賠償額を検討。「W値の区分に応じて定めるのが相当」として、住民側の控訴審での主張に沿ってW値95以上の区分を新たに設けて、月額を最大1万6千円から2万円に引き上げた。

 岩国基地では控訴審開始直後の17年8月から18年3月までに、厚木基地(神奈川県)から米軍の空母艦載機59機が移駐。控訴審で住民側は「騒音被害は拡大した」と訴えたが、高裁判決は移駐後に基地での飛行回数が増えたと認定したものの、「騒音状況の証拠は提出されていない」として賠償を認めなかった。

 一方、米軍機の飛行差し止めについて「国は制限できる立場にない」、自衛隊機については「民事訴訟による差し止め請求は不適法」として一審同様に退けた。(高橋俊成)

原告団長「沖合移設後、騒音大きく」

 「原告の被害感情と、裁判官の感覚が違う。一生懸命訴えてきたが、耳を傾けていただけなかった」

 岩国基地滑走路北端から約1・5キロの住宅地に30年ほど前から住む原告団長の津田利明さん(73)は判決後、厳しい表情で語った。航空機の騒音基準「うるささ指数」(W値)は80の地域。高裁判決は過去分に限り損害賠償を認めたが、滑走路が沖合に移設された後については一審同様、基準月額を減額した。

 午前0時ごろに就寝するが、寝る前に高音まじりの軍用機が飛ぶと寝付けず、深夜に騒音が聞こえると翌日は体調が悪い。無意識に身を硬くしているために腰や背中を痛め、食いしばった歯は何本も欠けたという。「空母艦載機が移駐してから、こんな体験をするようになった」と憤る。

 滑走路移設前、軍用機は自宅近くの工場群を避けて東の海側に急上昇、急旋回していたが、新滑走路運用後は真っすぐ飛行するようになった。「以前は爆音が遠のく感じだったが、今は次第に近づき、長く続くようになった。沖合移設後の騒音はむしろ大きくなったのに……」と話す。

 判決は飛行差し止めも将来分の賠償も認めなかった。「よくこんな判決をかけるなあ。このまま騒音が残るということなのか。僕はすごく憤っている」(具志堅直、伊藤宏樹)

全盲の原告「誰が守ってくれるのか」

 「残念の一言です」。原告の一人で全盲の鍼灸(しんきゅう)師、森本健一さん(57)は、飛行差し止めの訴えを退けた判決を山口県岩国市内の自宅で聞き、唇をかんだ。音を頼りに生活している森本さんにとって、騒音被害の影響はより深刻だ。

 弱視の妻と暮らす海沿いの家は、米軍機の離着陸の進入路にあたる。空母艦載機移駐後は、立て続けに飛んでくる米軍機が出す金属音による頭痛に悩まされているという。

 目が見えない分、聴覚は敏感だ。お茶を入れる時は、じょぼじょぼと注ぐ音で、どこまで入ったかが分かる。「それが私たちの生活。騒音でストレスがたまり、体にいろんな不調が出ている」

 鍼灸の際も、天井から米軍機の音が響きわたり、容体を伝えるお客さんの声が聞こえず、「えっ」と聞き返すことがある。「疲れてうちに来てくれているのに、何度も聞き返すのは本当に心苦しい」と話す。

 昨年10月、近所の狭い道を杖をついて歩いていたら、米軍機の爆音に後ろから来た車の音がかき消され、接触した。幸いけがはなかったが、「車の音を聞きとるだけでも大変なのに、飛行機の音が加われば外にも出にくい」。

 騒音被害が改善されないまま、艦載機が移駐された。「国に訴えたら県に言え、県に言ったら市に、市に言うと国へ、と言う。いったい誰が守ってくれるのか」(具志堅直)