神奈川)太田治子さんが新刊「湘南幻想美術館」

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織井優佳
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 湘南近辺の美術館で見られる絵画に着想した短い物語約40編を収めた「湘南幻想美術館」(かまくら春秋社)を、作家の太田治子さんが刊行した。甘さに終始せず、人生の苦みもちらりと配した連作集だ。母が大切にしていた画集を繰り返し眺めて育った太田さんは「勝手な想像は画家の思いとは裏腹かも。でも名画は沈黙していてくれる。絵は自由に見ていい」と話す。

 太宰治の愛人となって太田さんを生んだ母は、身内とも決別し、一人で懸命に働いて暮らしを立てた。テレビもない4畳半の部屋で母の帰りを待った太田さんには、貧しさの中でも母が手放さなかった「泰西名画集」が大切な友だった。クリムトが描く退廃的な女性は「口からのぞく歯が面白く」、ムンクの絵の病める少女には「私の友達だわ」と思った。空想を広げ、自分も絵を描いてト書きを添えて楽しんだ。「私は、絵に救われたんです」

 長じて作家になってからも、絵画に親しむ日常は続いた。鎌倉の月刊タウン誌「かまくら春秋」で、2016年から「湘南の名画から紡ぐストーリー」を連載することになったのも、「絵に寄りかかり、空想少女に戻って自由に文章を書くのが一番楽しい」から。今も続く連載の今年10月号掲載分までまとめたのが、今回の本だ。

 好きで長く鑑賞してきた西洋…

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