【動画】10月末で運休する上野動物園のモノレール=北村玲奈撮影
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 上野動物園で60年以上親しまれてきたモノレールが、老朽化のため、31日を最後に休止する。これまで存廃問題が持ち上がった際も、市民の強い要望を受けて走り続けてきた。乗客らは存続を望む。(丸山ひかり)

 10月下旬、平日午後でもモノレールは親子連れで満員だった。パンダのシャンシャンがいる東園の駅を出発し、少しするとぱっと視界が開け、眼下に西園の不忍池が見えてきた。

 「わー!」「ねえねえ、空を飛んでるよー!」

 子どもたちが窓の外を指さしてはしゃぎ始めた。両園を結ぶ橋には、手を振る人たち。手を振り返しているうちに、330メートル、1分半の空の旅が終わった。

 駅長の永田一秀さん(64)は自分で運転する時、景色を楽しめるポイントで速度を落とす。「歓声を聞くのが楽しみ」。休止の発表後は「小さい頃に乗った」と話す大人たちの声も聞こえてきたという。

 世代を超えて親しんだ人も多い。東京都荒川区の看護師・小川美絵さん(32)は幼稚園児の時に初めて乗り、今は子どもと一緒に楽しんでいる。「動物園のだいご味のひとつなのに。できれば続いて欲しい」。病気のため長時間は歩けない次男・瑶太くん(4)も、楽しみにしてきたという。

 「未来の乗り物だ、と思った」と振り返るのは、交通評論家の佐藤信之さん(63)。幼い頃、母に連れられ、初代の車両に乗った時のわくわく感が忘れられない。丸みを帯びた車両の正面の顔は飛行機を思わせ、幼児向け雑誌に載っていた未来都市の乗り物に似ていたという。

 父が早く亡くなり、母はひとりで佐藤さんときょうだいを育てていた。今、母は95歳。認知症を患っている。「多くの子どもたちにモノレールは印象的な思い出として残っているはず」

 群馬県高崎市の主婦の女性(65)は、孫(5)と車両を写真に収めていた。孫はモノレールのファン。今春、故障で運休していた時は怒っていたという。「なくなってしまうかもしれないなんて、言えません」

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 上野動物園のモノレールは1957年、東京都交通局が総工費2億円(当時)をかけてつくった。日本で初めて実用化されたモノレールだ。

 戦後の経済発展にともなう交通混雑を解消するため、将来、モノレール交通網を作ることを念頭にした「実験線」として位置付けられていた。当時の朝日新聞で、交通局長は「都内の交通難を打破するには地下鉄とモノレールしかない」としつつ、「地下鉄は経費がかさみ工事に時間もかかる。モノレールが一番有望」とコメントしている。

 だが同じ頃、都にとって悲願だった地下鉄建設が国から認められた。モノレール計画はしぼみ、上野動物園と同じ、片腕でレールにぶら下がるタイプが国内で作られることもなかった。

 その後も、動物園を訪れた人々に、モノレールでの小さな「旅」は愛された。

 パンダのランランとカンカンが公開された翌年の73年度には、利用者が150万人を超えた。80年代に都の公営事業の赤字問題などで廃止が議論されたこともあるが、都民らの要望も強く存続。これまで6500万人以上を乗せてきた。

 だが、今の4代目の車両は老朽化し、すでに調達できない部品も多くなった。「1月に故障した際は何とか代替品を見つけたが、1カ月半運休せざるをえなかった」と都の担当者。「安全に動くうちに判断した方がいい」と、車両の引退と運行の「休止」も決めた。

 新しい車両を作れないか、メーカーに打診し続けているが、現段階では製作できるめどが立っていないという。

 今後、レールや施設は当分の間そのままにする。来月に都内数カ所でアンケートをし、今後の園内の移動手段について、都民の意見を聞く予定だ。