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【アピタル+】患者を生きる・眠る「睡眠薬を減らす」(不眠症の治療)

 睡眠薬をのみ続けることに不安を抱く不眠症の人は少なくないのではないでしょうか。不眠症には睡眠薬以外にどのような治療があるのでしょうか。また、睡眠薬をのんでいる場合、薬を減らすにはどうしたらいいのでしょうか。東京慈恵会医科大学葛飾医療センターの山寺亘・精神神経科診療部長(56)に聞きました。

拡大する写真・図版山寺亘・東京慈恵会医大葛飾医療センター精神神経科診療部長

 ――不眠症はどのような病気ですか。

 不眠には4種類のタイプがあります。①寝つきが悪い「入眠障害」②夜中に何度も目が覚める「中途覚醒」③朝早く目が覚め、その後眠れない「早期覚醒」④深く眠った感覚が得られない「熟眠障害」です。

 睡眠時無呼吸症候群など、ほかの原因がないのにこうした症状があり、しかも疲労感を強く感じたり、眠くて集中できなかったりして、職場や学校、家庭などにおける日常生活に支障が生じる場合、不眠症と診断されます。逆に言えば、眠れなくても、日常生活に支障が無ければ、不眠症ではありません。

まずは非薬物治療から

 ――どのような治療をするのでしょうか。

 まず最初に行うべき治療は、非薬物治療です。柱となるのは「睡眠衛生指導」です。▽睡眠時間は人それぞれ。長さにこだわる必要はない▽就寝時間にこだわりすぎずに眠くなってから床に就く▽目が覚めたら日光を取り入れて体内時計をスイッチをオンにするなど、光の利用でよい睡眠を得る▽同じ時刻に毎日起床する▽眠りが浅いときは、積極的に遅寝早起きに▽睡眠薬代わりの寝酒は不眠のもと、といった睡眠に関する正しい知識を学びます。

 また、何時にベッドに入り、何分ぐらいで寝入り、夜中に何回目が覚めたかといった自分の睡眠の状態を「睡眠日誌」として1~2週間記録してもらい、それを見ながら、生活を洗い直してみます。

 「8時間寝なければいけない」などと思い込んでいる人もいるので、そういった誤解を解き、習慣を変えるだけで眠れるようになる人もいます。

 ――ほかにはどのような非薬物治療があるのでしょうか。

 睡眠についての考え方や行動の癖を修正する「認知行動療法」という治療もあります。公認心理師らが、患者の話をていねいに聞き、不眠の原因となるような思い込みや行動がないか、よりよく眠るために改善できることはないかを、睡眠日誌なども活用し、一緒に考えます。

 不眠症の患者さんは「眠れていない」と自分の睡眠を過小評価する傾向があります。そこで、眠れていないことではなく眠れたことに注意を向け、自分の睡眠をなるべく客観的に評価できるように、考え方を修正できるような指導もしていきます。

 また、呼吸法や筋肉をほぐす方法など、リラックスする方法も練習することがあります。

 ――認知行動療法はどこで受けられますか。

 北米や英国では不眠症に対する認知行動療法が普及しているのですが、国内では公的医療保険の対象ではなく全額自己負担なので、実施する医療機関もあまり多くありません。

 東京慈恵会医科大学精神医学講座では、認知行動療法の一部を動画で公開しています(https://jikei-psy.com/zzz/別ウインドウで開きます)。

拡大する写真・図版慈恵医大のサイトでは、睡眠薬の正しい使い方などを動画で紹介している

睡眠薬、量が少ない方がいい?

 ――睡眠薬をのむのはどのような場合ですか。

 本来は、非薬物治療で効果がない、あるいは他の病気を合併している場合など不眠で日常生活に非常に大きな支障が出ている、という場合に初めて、薬物治療を行います。つまり、患者さんの状態をきちんと評価し、薬物治療が必要だと診断してから薬物治療を始めます。

 ――睡眠薬をのむ場合、なるべく少ない量の方がいいのでしょうか。

 いいえ、そんなことはありません。睡眠薬をのむ時には、不眠症の程度に応じて、しっかり眠れるだけの量をのむことが大切です。

 不眠症の患者さんは、「今晩も眠れないのでは」などと不眠に対して恐怖心を抱いている方も少なくありません。治療では不眠への恐怖心を取り除くことも大切です。薬をのんである程度症状が改善し、日常生活の質も向上してくると、恐怖心も薄らいできます。

 ――睡眠薬をのみ続けると依存が生じるのではないですか?

 不眠症の状態を正しく評価しながら必要な量をきちんとのんでいれば、依存が生じることはないはずです。

 逆に、睡眠薬が不安だからと、中途半端に量を控えて十分に効果が無いままだらだらと長期間のみ続けるような使い方をすると、依存が生じる原因になりかねません。

自己判断で薬をやめないで

 ――眠れるようになったら睡眠薬をやめていいのでしょうか?

 自分で勝手に判断してやめるのは危険です。急にやめると、眠れなくなり、それが不安で以前より不眠が悪化し、また睡眠薬をのむ、といった悪循環が起きる恐れがあります。

 睡眠薬はいきなりやめずに、少しずつ減らしていくことが大切です。睡眠薬をのんでいた期間と同じ、あるいはもっと長い期間をかけて、ゆっくりと減らしていきます。

 また、症状が改善していないのに薬を減らすのもよくありません。睡眠薬をのんで不眠の症状が改善し、日常生活での支障が少なくなり、不眠に対する恐怖心が薄らいできたら、薬を減らしていきます。

 ――具体的にはどのように薬を減らすのですか。

 減らし方は、患者さん一人ひとりの状態によって個人差があります。

 一般的には、2~4週間に1度、4分の1錠~2分の1錠ずつ減らしていきます。複数の種類の薬をのんでいる場合、薬の作用期間の短いものから減らしていくことが多いです。

 無理をしないことが重要です。仕事のある方なら、最初は、仕事が休みの日の前の晩だけ減らしてみるのもひとつの方法です。

 薬の量が4分の1錠、あるいは2分の1錠だけになったら、今度は仕事のある日の前だけのむ、慣れたら、週3日だけのむ、それでも問題なければ、眠れない日だけのむ、という風に徐々に薬から卒業していきます。

 ――薬を減らすと体調が悪化することはないですか?

 薬を減らすと誰でも数日間は眠りにくくなります。でも、焦らなくても大丈夫です。1週間もしないうちに慣れてきて眠れるようになってきます。また、薬を減らした直後は、イライラしたり、頭がピリピリしたりすることもありますが、それも次第に収まってきますので、不安に陥らないようにして下さい。

 また、体調やストレスのかかり具合などによって、減らした薬をいったん増やさなければならない場合もありますが、それはよくあることで、焦ったり落ち込んだりする必要はありません。不眠症は行きつ戻りつしつつよくなっていくものです。

 意識して、睡眠のことではなく、起きている時間を楽しく、有意義に過ごすことに気持ちを向けるようにしてみて下さい。

<アピタル:患者を生きる・眠る>

http://www.asahi.com/apital/special/ikiru/