[PR]

【アピタル+】患者を生きる・眠る「アルコール」(飲酒と睡眠)

 アルコール依存症の患者の中には、睡眠障害の悩みを抱えている人も少なくありません。酒を飲めばよく眠れる、と思いがちですが、本当にそうなのでしょうか。睡眠障害に詳しい久留米大学の内村直尚教授(63)にアルコールと睡眠の関係について聞きました。

「眠るため」が不眠の原因に

 ――アルコールと眠りにはどのような関係があるのでしょうか。

 「アルコールを飲めばよく寝られる」と思って、眠れない時によく寝酒をする人がいますが、それは勘違いです。確かにアルコールは急性的には入眠を早めますが、アルコールがアルデヒドという覚醒物質に代謝される3~4時間後には、目が覚めてしまいます。つまり、寝酒をすると、寝付きはいいが、後半は眠りが浅くなって睡眠時間も短くなるのです。アルコールは、浅い眠りの「レム睡眠」を抑制する効果もあり、その反動で朝方に嫌な夢をみることもあります。

 ――寝酒を続けるとどうなりますか。

 10日もたたないうちに耐性が生じて、入眠効果が薄れてきます。寝付きも悪くなるうえに深い眠りも減り、アルコールの量も増えるという悪循環に陥り、そこからアルコール依存症になることも少なくありません。

 ――なぜ眠れないとアルコールを使ってしまうのでしょうか。

 日本人は、眠れないことを病気と感じる人はあまり多くありません。「睡眠薬を使いたくない」と考え、アルコールを飲んで眠ろうとする人が多いのです。お酒を飲まないと眠れないというのは、アルコール依存性睡眠障害という立派な病気です。眠るために使っていたアルコールが、逆に不眠の原因になってしまうのです。

 ――適量ならいいのでしょうか。

 寝酒に「適量」はありません。眠る目的で飲酒するのはよくありません。ただ、アルコールには鎮静作用もあります。寝る数時間前に晩酌するのであれば、リラックスでき、睡眠の質を悪くすることもありません。ただ、昔と違って、夕食の時間が遅くなっているので、どうしても寝酒になってしまい、アルコールの効果がマイナスに働いてしまうことが多いのです。

写真・図版

アルコール依存症
自らの意思で酒の飲み方をコントロールできなくなる。酒が手放せなくなり、酒をやめると手の震えや不眠などの「離脱症状」も出る。原因となる多量飲酒のきっかけは、仕事のストレスや家庭内の不和などさまざまだが、不眠などの睡眠障害も関係する。多くの人が病気を認めようとしないのも特徴だ。

様々な睡眠障害に悪影響

 ――そのほかに睡眠にどのような影響があるのでしょうか。

 アルコールは、気道の筋肉を緩めて気道を狭くしたり、毛細血管を緩めて鼻の通気を悪くしたりする作用があります。そのため睡眠中に呼吸が止まりやすくなります。飲酒により睡眠時無呼吸症候群の症状が悪化したり、飲酒した時だけ無呼吸になったりします。他にもむずむず脚症候群など様々な睡眠障害に悪影響を及ぼすのです。

 ――アルコール依存症の人が酒をやめると、不眠などに悩まされるそうですね。

 アルコール依存症の人は、寝付きが悪くなり、睡眠が浅くなっています。そういう状態がずっと続いていたところで、酒をやめると、リバウンドで、一睡もできなくなったり、意識障害を起こしたりすることもあります。1年くらいは睡眠の質が回復しないことが多いです。多くのアルコール依存症の人の悩みは、アルコールをやめた後、夜に眠れないことです。薬をつかって睡眠を確保することは大事です。

 ――薬物治療ではどんな注意点があるのでしょうか

 アルコールに依存する人は、睡眠薬にも依存しやすいという特徴があります。不眠症状の治療という点で、断酒後1カ月程度は睡眠薬を使ってもいいのですが、それ以降は睡眠薬への依存に注意しないといけません。酒をやめた後はうつにもなりやすいので、鎮静系の抗うつ薬を処方しています。アルコールをやめた後は、不眠とうつを予防することがポイントになります。それでも睡眠が良くならない人には、抗精神病薬を処方します。

体内時計を整え、規則正しい生活を

 ――薬物療法以外では、どんなことが大事でしょうか。

 昼夜のメリハリをつけ、昼間の活動性を上げることが大事です。昼夜逆転しやすいので、日中、光を浴びて覚醒レベルを上げると、体内時計のリズムを整える働きのあるホルモンの「メラトニン」の分泌が夜間に増えます。それが、夜ぐっすり眠るためのコツです。朝起きて散歩をして光を浴びたり、昼間に運動したりして、体内時計を整える。アルコールで乱れた生活リズムを取り戻すことが治療には不可欠です。

 1人では、心も折れそうになるので、断酒会などの自助グループで、同じ病気に悩んだ先輩や仲間の話を聞くことも励みになります。

◇ご意見・体験は、氏名と連絡先を明記のうえ、iryo-k@asahi.comメールするへお寄せください。

<アピタル:患者を生きる・眠る>

http://www.asahi.com/apital/special/ikiru/(聞き手・北林晃治)