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 駅は誰もが使う場所ですが、駅の中で不便や焦りを感じたことはないでしょうか。たとえば、ベビーカーや車椅子で移動中にエレベーターが見つけられない、でも、誰かに尋ねたり手助けを頼んだりするのは気が引ける――。一方で、誰かが困っていそうな時、見ないふりをしてしまった経験はありませんか。駅の「困った」の解決法を、みんなで考えます。

渋谷駅、ベビーカー押し記者が歩くと 最短ルートに階段2カ所、エレベーターあるはずが

 段差の大きい地形の上に4社が乗り入れ、複雑な構造の渋谷駅。東口に複合施設「渋谷スクランブルスクエア」(以下スクエア)ができ、案内表示も新しくなったといいます。よく駅で迷う記者が、ベビーカーを持参してバリアフリー度を確かめてみました(11月21日取材)。

 同僚と待ち合わせ、東京メトロ銀座線で渋谷へ=①。まずはスクエアを目指します。地上47階建ての大きな建物ですが、ホームの地図にはなぜか載っていません。地図横の行き先一覧には名前があり、示された方向に進むとエレベーターがありました。

 3階で降りると、目の前にスクエアが=②。わかりやすい駅になったのかも、と期待が高まります。「(京王)井の頭線に行ってみましょうか」。同僚の提案に乗り、スクエア前の地図を確認。最短距離はJRの駅を西側に抜けて井の頭線に行くルートですが、途中2カ所階段があります。ベビーカーを抱えて下りられないか見に行きましたが、15段ほどあり諦めました。

 駅の外に出てみることにします。スクエアのエレベーターで1階に降り、駅を東から西へ通り抜ける自由通路に入ります=③。長い通路の途中でふと立ち止まりました。「消えちゃいましたね」。各路線が書かれた案内表示の中に、「井の頭線」の文字がありません。引き返すか迷いつつ通路を抜けると再び「井の頭線」の表示が現れ安心しました。

 JR西口のモヤイ像前に出て駅伝いに複合施設「渋谷マークシティ」まで歩くと、2階にある井の頭線改札に上れる入り口があります=④。エレベーターはなかったので、その場の地図を見てマークシティを1棟抜けた先の西口改札に向かいます。しかし西口にもエレベーターはありませんでした=⑤。地図上では近くにエレベーターがあるように見えましたが、改札内ではなかったようです。

 「あの人に話を聞いてみましょうか」。改札から引き返していく車椅子の男性がいました。旅行中で井の頭線沿線の友人に会いに行く途中だった金浜秀一さん(56)。同じようにエレベーターを探しているところでした。金浜さんはJRで渋谷に着き、駅係員や通行人に尋ねながら井の頭線を目指しましたが、なかなか詳しい情報が得られなかったそうです。「事前に調べてもスロープの場所などはわからないことも多くて。車椅子の目線だと案内も見つけにくいんです」。一緒にマークシティの店員に尋ね、段差なく乗り場に行ける中央改札に行くエレベーターと降りる階がやっとわかりました=⑥。「五輪に向けてもっと整備されているかと思いました。来年来る人たちがパニックにならないか心配です」(高重治香、藤田さつき)

手助け、心の垣根下げよう 交通エコロジー・モビリティ財団 竹島恵子さん

 東京五輪・パラリンピックを見据え、エレベーターのあるルートを増やし、鉄道各社が乗り換えや出口の案内表示を統一化するなど、バリアフリー化が急ピッチで進んでいます。既に海外に比べて先進的であるところも多いかと思います。一方でなかなか進まないのが「心のバリアフリー」です。

 交通エコロジー・モビリティ財団は公共交通利用者の意識調査を続けています。その結果から、日本特有の課題が見えてきました。

 安心して電車やバスを利用するために必要と思うサービスを尋ねたところ、多かったのは表示の分かりやすさやホームページなどの情報提供。一方で比較的ニーズが低かったのが、駅員らの人的対応でした。「駅で困っている人を見かけたら」との問いには、「余裕、時間があったら助ける」が「積極的に助ける」を上回りました。

 ここから分かるのは、他人に助けてもらうより「自分で完結したい」、また自分もあまり他人に関わらないようにしようという傾向です。

 もう一つ興味深かったのは、エレベーター利用時の意識の「格差」です。車椅子やベビーカーなどエレベーターが必要な人に「譲る」と回答した人は7割以上。一方で自分が必要としている時に「譲られなかった」という人が9割以上にのぼりました。

 気づけば手助けするつもりだけど、実際は気づけていない――。日本人は周りを気にすると言われますが、駅では周囲があまり「見えていない」のかもしれません。設備はバリアフリー化が進み、困っていても「迷惑をかけちゃいけない」と言い出せない人も多くいるでしょう。

 ロンドンでは、世界最古の地下鉄にエレベーターのない駅も多いですが、五輪・パラリンピックの際には乗客が手助けし合っていたそうです。駅で困る経験は誰にもある。そう思って周りに目を向ければ、駅の風景は変わるのではないでしょうか。「心のバリアフリー」という言葉がいらなくなり、居合わせた人たちが普通に手助けし合う駅が増えればと願っています。(聞き手・藤田さつき)

よくある質問の対応、AIで実験

 「AIが駅を案内します」。11月上旬にJR新宿駅を訪れると、構内の精算機の隣に、こんな看板とディスプレー画面が置かれていました。画面には駅員のイラストと、「地下鉄・私鉄の場所はどこですか?」「トイレはどこですか?」などの質問が表示されています。画面に触れるか、付属の受話器で話しかけると、知りたい情報が表示されます。

 よく聞かれる質問には駅員に代わって機械が答えられないかを試すJR東日本グループの実証実験です。複数の企業が作ったさまざまなタイプのディスプレーやロボットが、都内や横浜の主要駅に設置されました。新宿のタイプは、来春開業する高輪ゲートウェイ駅にも試行導入されるそうです。

 記者が試すと、トイレやロッカーの位置が地図上に示され、よく分かりました。一方、私鉄への乗り換え方法は、地図と矢印で大まかな行き方が示されましたが、「エレベーターで行く方法」など細かい情報はうまく聞き出せませんでした。

 また、JR東ではこの秋、車両内や一部駅の路線図を改良しました。弱視や高齢の人も見やすいように色の使い方や凡例の書き方を変えたのです。駅の使いやすさや迷いやすさを研究した大宮支社の池田佳樹さん(35)の提案が生かされました。(高重治香)

バリアフリー情報、補完サイトも

 駅の現場での案内だけでは迷ってしまう人のために、情報を補ってくれるサイトや地図もあります。

 ●「ベビーメトロ」(https://www.babymetro.jp/別ウインドウで開きます

 東京メトロのサイト。子育て中の社員・横溝大樹さん(31)が駅のわかりにくさを何とかしたいと提案、チームで開発しました。特長はエレベーターが「ある」という情報以外に、「この駅には○○線から△△線に乗り換えるエレベーターはない」という情報も明示したことです。事前に「ない」こともわかれば、利用者は別の駅で乗り換えたり、荷物を減らしてきたりといった備えができる、という発想です。調べられる情報は、①「地上・ホーム間」「乗り換え」がエレベーターのみで移動できるか②おむつ替えできるトイレの有無③ホームのベンチの有無④乗り換えに便利な乗車位置、⑤周辺地図(エレベーター・スロープのある出口を明示)と構内図、などです。

 ●「えきペディア(ekipedia)」(http://ekipedia.jp/別ウインドウで開きます

 大阪のNPO「まちの案内推進ネット」が、9都市の地下鉄駅・主要駅について、エレベーターや多機能トイレの詳細がわかるマップを掲載。大阪梅田・なんば両駅については、すべてのエレベーター(3月末時点)を写真入りで掲載し、配布もしました。一部都市は冊子版も販売。問い合わせは岡田光生さん(06・6768・7002)。〈高重治香〉

声かけに迷い、床にも表示を

 朝日新聞デジタルのアンケートに寄せられた声の一部を紹介します。

●改札出た後の案内図がない

 違う出口に出てしまうことがあるが、駅構内の案内図はあっても、出口から出口へ移動する最短ルートや、車椅子やベビーカーが使えるルートなど、いったん改札を出た後の駅まわりの案内図がない。(千葉県・30代女性 ベビーカー経験)

●アナウンスが多すぎる

 東京の地下鉄では、アナウンスが爆音過ぎていつも閉口している。録音された駅のアナウンス、ホームの駅員のマイクアナウンス、地下鉄車両の録音アナウンス、地下鉄車両の運転士のアナウンスが混在していて、ほぼ同じことを同じ時に言いあっていて混乱状態です。スピーカーの音量の限界を超えて聞き取れないこともあります。多分利用者は誰も注意しておらずアナウンスの効果は疑問。海外と比較すると日本の地下鉄のアナウンスの数と量は特段に多く、静かにすごしたい自分には不快で、逆に本当に必要な時のアナウンスに誰も注意を払わなくなるのではと心配しています。(東京都・50代男性)

●スマホ持っていない人は大変

 案内表示やアナウンスは十分なほどされていると思いますが、多すぎたり、雑多に羅列したりしているだけなど、まだまだわかりにくさがあると思います。スマホなどのナビゲーションありきな気がして、年配の方やスマホを持っていない方は大変だと思います。(岡山県・20代男性 車椅子介助経験)

●声をかけるか迷う

 いつも心が痛みます。大きい荷物を抱えた方、お困りの方をお見かけすると、一声かけるべきか否かということです。雑踏の中で話しかけると迷惑になるのでは? 自分の言った道があっているのか? 責任取れるかな? とためらってしまう自分が本当に情けなく思います。(東京都・20代男性)

●エレベーターの割り込み

 最近までベビーカーを使用していました。エレベーター付近は小回りが難しく、後から来た人に押し流されて順番を抜かされ、順番が来ても空きスペースにベビーカーが入れないように立ちはだかられて結局、後の方に譲って自分たちが乗れないことが何度もありました。地下深い駅ではおむつ替えのため、トイレのある途中階で降りると、次に乗る時には既に満員で何台見送っても乗ることができず、泣く泣く子供を抱っこしてベビーカーを持って階段を上ることになったこともあります。ただでさえ荷物の多い乳幼児期にエレベーターを使えないのは本当に大変でした。(神奈川県・30代女性 ベビーカー経験)

●助けますマークを作って

 マタニティーマーク、ヘルプマーク、子供を抱っこしているだけでも、全身で助けてほしいと言っているようなものだ。だけど、進んで助けますよ、をアピールする手段はない。そんなマークがあれば、頼みにくさは減るかもしれない。なくても、頼むことも助けることも当たり前にできる世界が来ればいい、でも現実はそうではない。できることから一歩ずつ、どうぞそんなマークを作ってください。いちばんに入手しに行きます。(東京都・30代女性 ベビーカー経験)

●無関心さが怖い

 海外から帰国した際に、ベビーカーとスーツケースがあったが浜松町駅で階段のみの場所があり、子供を先にあげて、そのあとで荷物を取りに戻るという非常に怖い思いをした。スウェーデンでは、まず階段しかないという状況はなく、さらにこのような状況なら必ずこちらが迷う前に誰かが手を貸してくれている。日本はたくさんの人が横を通り過ぎていき、人々の無関心さに驚くとともに怖さを感じた。(東京都・40代女性 ベビーカー経験)

●親切断ると嫌み

 自力でも何とかなりそうなので、少々頑張ってやっていることを無理やり手助けをされそうになることがあります。その旨を伝えるとあからさまに嫌な顔をされたり、嫌みを言われたり、最悪の場合は説教をされることがあります。(兵庫県・60代男性 高齢・病気・けがなど)

●色分け矢印で示して

 病院によくある、廊下の色分け方向指示矢印(X線、採血など)のように、該当駅の方向を床に表示できないものかしらと思います。特に東京地下鉄では色とアルファベット、駅番号を示しておくと、外国人にもわかりやすいかと。(東京都・60代女性)

●エレベーターの有無表示を

 この先の出口は、階段しかないのか、エレベーターもついているのかの表現が欲しい。ひざが痛くてエレベーターを使いたかったが、近い階段出口に人が流れて、痛いまま階段を上がらなければならなかったことがある。(栃木県・40代女性 高齢・病気・けがなど)

●老眼でも見える大きさに

 券売機他、全てに言えることなのですが、老眼の人にも見える大きさの字で、説明文を書いて頂きたいと思っています。(埼玉県・60代女性・車椅子介助経験)

●OBボランティアを

 高齢になり視力が衰えてくると、頼りは「聞く」こと。が、駅員がいない。OBボランティア(有償)の「案内サポーター」を配置できないか?(長野県・70代男性 高齢・病気・けがなど)

●アナウンスは邪魔者扱いでなく

 スーツケースなどを持った人は他の迷惑にならないよう気をつけて、という内容のアナウンスを聞き、これでは助け合い推進どころか弱い人の邪魔者扱い推進体制だと感じました。「大きい荷物をお持ちの方への温かいご配慮をお願いします」に変えるだけで、意識が変わるのでは? 「自分のことは自分で」ができない状況は、どんなに強い人にでも起こる可能性がある(例えば自然災害の時)ことを全ての駅利用者に宣伝して、温かい日本をみんなで造る努力をしませんか。(宮城県・50代女性 高齢・病気・けがなど)

助け合う心、巡り巡って

 駅の案内表示のわかりやすさや、助け合いのあり方など、ソフト面から見た駅のバリアフリーについて、さまざまな声をいただきました。年を取り、けがをして、初めて移動の大変さに気づいたという声がありました。ベビーカー利用者は車椅子の人を、車椅子の人は海外から来る障害者の人を、「自分さえこんなに大変なのだから、どんなに大変な思いをしているのか」と気づかっていました。より大変な人を思い、わかりやすい駅や助け合える関係を育てておくことが、いつか自分を助けるのではと感じました。(高重治香)

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