障害を抱える人たちのコミュニケーションを主題に、中央大学で研究を続ける日本学術振興会特別研究員PDの天畠大輔さん(37)は、自分自身も医療ミスによる重い障害を抱えながら、暮らしている。研究とは。人生とは。命とは。その日常を追い、思いを聞いた。
動けない 話せない 字が読めない
どれだけの絶望と向き合ってきたのだろうか。
四肢がまひし、ひとりでは動くことも声を出して話すこともできない。時々、筋肉が緊張してあごが外れて息ができなくなる。そのたびにあごを引きあげる介助者がいなくては、窒息死してしまう。視覚は色や立体がある程度わかるが、文字は読めない。
障害を負ったのは、14歳のとき。急性糖尿病になり医療ミスで心肺停止状態になったのが原因だ。医師は「植物状態で知能も幼児レベルに低下した」と診断した。
だが約半年後、病室のベッドで息子が何かを伝えようとしていると感じた母(66)が「大輔、50音を言うから何かサインをして」と語りかけた。
「あ・か・さ・た・な……」と言う母の声を聞き、何度目かの「は」のときに、わずかに舌を動かした。「は行ね。は・ひ・ふ……」。再び「へ」で反応。1時間以上かけ2人で「へ・つ・た」と紡ぎ出した。
経管栄養の袋が空なのに気づいた母が「おなかがへったの?」と尋ねた。障害を負ってから初めて他の人と意思を通わせた瞬間だった。
以来、この「あ・か・さ・た…
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