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 まずは図面をご覧いただきたい。王手の連続で相手の玉将を捕らえるパズル「詰将棋」の問題だ。左上の「8一」の地点にいる玉将が、王手の連続の末、65手後に右上隅の「1一」で詰み上がる。華麗な捨て駒が次々と飛び出し、盤面左下にいる飛車と角はいつのまにか消えている。実戦ではまず味わえない妙手や謎解きに満ちた芸術的な作品だ。この鮮やかな作品を生み出したのは、詰将棋作家の若島正さん(67)。詰将棋解答者として日本一の藤井聡太七段(17)も憧れる、詰将棋の世界の第一人者だ。今年出た作品集『盤上のフロンティア』(河出書房新社)には、見る者をアッと言わせる斬新なトリックや、プロでも解ける人が限られるほどの難解作がちりばめられている。将棋が強くなりたい人は手順を読むトレーニングとして問題に取り組むが、創作したり鑑賞したりして楽しむことにハマる「詰キスト」と呼ばれる人たちも存在する。その世界の深遠とは、どんなものなのか。問題の詰め上がり図と解答手順は末尾に。

<詰将棋とは> 指し将棋は2人で対戦し、先に玉将を捕まえた方が勝ちのゲームだが、詰将棋は玉将を捕まえる唯一絶対の手順を考えるパズル。数学の問題を解く感覚に似ている。解く際には、攻める側の最短の手順と、逃れる側の最長の手順を考えるのがルール。作品の成立には持ち駒を使い切るなど厳しい条件がある。初心者用の1手詰めから1525手かかる作品もある

「緻密な理論」「クオーツ時計のような」、プロ敬愛

 「緻密(ちみつ)な理論の上に築かれた鮮やかな手順。詰将棋の新たな可能性を感じます」。詰将棋を解く速さと精度を競う「詰将棋解答選手権」で5連覇中の藤井七段が、同書の帯文に寄せた文章だ。

 「クオーツ時計のような精密な組み立ての作品ばかり。そのからくりが作者自身の言葉で語られていて、鑑賞した後は違う景色が盤上に広がってくる」。若島作品を敬愛するトップ棋士、行方(なめかた)尚史(ひさし)九段(45)も感嘆する。

 6月に出た同書は、2001年の『盤上のファンタジア』の続編で、若島さんが04年以降に発表した100作(5~65手詰め)をまとめた。解答選手権で棋士たちが白旗をあげた難解作も多く、解くのは容易ではない。

 だが、解説を読みながら盤上に…

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