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【アピタル+】患者を生きる・職場で「不妊治療」(仕事との両立)

 働く女性が増える中、仕事と不妊治療の両立に悩む人も多くなっています。治療の途中で、退職に追い込まれる女性もいます。両立するうえで、知っておくべき治療のポイントや心構えはあるのでしょうか。「仕事と不妊治療の両立支援外来」を開設する蔵本ウイメンズクリニック(福岡市)の2人に話を伺いました。

不妊治療の時期の目安

拡大する写真・図版日本生殖補助医療標準化機関(JISART)理事長で蔵本ウイメンズクリニック院長の蔵本武志医師=福岡市博多区

 まずは、蔵本武志院長(67)に治療について聞きました。

 ――不妊治療を検討すべき時期の目安とは。

 妊娠する、させる力は、加齢で低下します。不妊とは、妊娠を望む健康な男女が避妊をせずに性交しても、一定期間、妊娠しない状態です。日本産科婦人科学会はその期間を「1年間」としていますが、米国の生殖医学会では、女性が35歳以上の場合、「6カ月」をめどに不妊検査をすることが認められるとしています。日本もそうです。女性が35歳以上なら、1年を待たずに早めに検査を受けてもいいでしょう。40歳以上の女性、子宮内膜症や精巣手術など生殖器官の病歴がある方、抗がん剤や放射線治療を受けたことがある方などは、できるだけ速やかに検査を受けた方がいいです。

 ――仕事と両立するための治療のポイントは。

 当院でも8割の患者さんが仕事を持っています。患者さんを対象にした16年のアンケートでは、不妊治療の期間が3年以上になると、退職など働き方を変える人の割合が有意に高くなっていました。精神的・身体的負担が続くうえ、治療のために休みをとることで同僚に負担をかけるなど、職場への気兼ねから退職せざるを得ない状況になっていると考えられます。仕事との両立には、エビデンス(科学的根拠)に基づいて、治療の無駄を省き、長期化させないことが大切です。

人工授精は6回で頭打ち

 ――具体的には。

 不妊治療を始めて、排卵日の近くに頻回に性交をする「タイミング法」を長く続けるカップルも多いです。しかし、成功率をみると「タイミング法」は6回で、動きのよい精子をカテーテルをつかって子宮内に注入する「人工授精」は5回で、頭打ちになるとされます。年齢が高い人や、卵巣内に残っている卵子の数を反映するホルモン値が低い人などは、年齢に応じて早めにステップアップするよう、治療を進めていった方がいい場合もあります。

 ――仕事との両立が難しい理由は何でしょうか。

 ホルモン値や卵子を包む卵胞の大きさで通院日が決まるので、予定が立てられないところです。特に体外受精のために、卵巣から卵子をとる(採卵)月は、通常、ホルモン剤を注射しながら採卵する時期を見極めるため、月経の数日後から5~7回通院する必要があります。受精卵を移植する月は、移植日を休日に設定し、そこから逆算して、ホルモン剤で子宮内膜を整えることも可能です。採卵の月をどう乗り切るかがポイントになります。

 ――良い方法はあるのでしょうか。

 当院では「ランダムスタート法」をとり入れています。もともとがん患者さんに対して行われていた方法です。抗がん剤や放射線治療は、卵巣などに影響を及ぼす可能性があり、がん治療の前に、急いで採卵をする必要があります。その場合は月経を待たず、排卵誘発をして採卵します。この方法が、一般の不妊治療患者さんでも有効なことがわかってきました。当院でも、月経開始数日後から排卵を誘発する通常の方法と比べて、採れる卵子の数や質に差がないという結果が出ています。ゴールデンウィークなどの長期休暇に採卵があたるよう、逆算してランダムスタート法で採卵誘発を行うと、有休を使わず採卵することもできます。ホルモン剤を調節しながら、ある程度は計画的に体外受精をすることが可能になってきました。ですが、仕事の予定を優先するあまり、採卵・移植に最も適した時期を逃しては意味がありません。目的を忘れないことが大切です。

事前の情報提供で支援

拡大する写真・図版蔵本ウイメンズクリニック副院長で不妊症看護認定看護師の村上貴美子さん=福岡市博多区

 次に、不妊症看護認定看護師である村上貴美子副院長(53)に両立支援外来の取り組みを聞きました。

 ――両立支援外来とは、どんな取り組みでしょうか。

 不妊治療の専門的な知識をもつ「不妊症看護認定看護師」や「IVFコーディネーター」が、仕事と治療が両立できるように治療の前に情報提供をします。患者さんごとに勤務体制や休暇をとる方法を確認し、医師とともに治療スケジュールを調整します。18年5月に始めました。1人30分程度で、クリニックに通院している方は500円、していない方は1千円で相談ができます。

 ――患者さんの反応は。

 利用した患者さんへのアンケートでは「仕事の予定を相談することで精神的な負担がかなり軽減された」「ゴールデンウィークに採卵ができると知って、とても助かった。職場にはどうしても言いにくく、仕事を休まずに病院に来ることができて、治療をあきらめずにすんだ」といった声をもらっています。

 ――治療について、会社や上司に伝えるべきでしょうか。

 いろんな考えがあると思いますが、当院では職場に伝えるようアドバイスしています。17年には体外受精で生まれる子は全出生児の16・7人に1人になりました。実は職場の上司も不妊治療の経験者というケースは少なくありません。相談することで、活路が見えることもあります。16年に患者さんに行ったアンケートでは、約6割が治療について職場に話し、うち約9割は「話して良かった」と回答しています。国も仕事と不妊治療の両立をサポートする方針を出し、不妊治療のための休暇制度や補助金を設ける企業も増えています。患者さんの中には、職場の制度を知らないという方もいます。せっかく利用できる制度を使わないのはもったいないです。ぜひ制度を見直してみてください。

自分の時間を大切に

 ――両立のため、患者さんに伝えていることは。

 まず身体的にも、精神的にも無理をしすぎず、完璧を求めないことです。両立をめざす患者さんはまじめな方が多く、仕事も治療も完璧に、と思ってしまいます。思い詰めると治療がつらいものになってしまいます。仕事や治療以外に、自分を大切にする時間をもってほしいです。治療の帰りにおいしいランチを食べるでもいい。楽しみをつくって乗り切ってほしいと思います。また、ひとりでため込まず、看護師やカウンセラーに相談してください。適切な時期に治療のステップアップを助言するなど、患者さんにとっていい方法を一緒に考えていきます。

◇ご意見・体験は、氏名と連絡先を明記のうえ、iryo-k@asahi.comメールするへお寄せください。

<アピタル:患者を生きる・職場で>

http://www.asahi.com/apital/special/ikiru/(聞き手・水戸部六美)