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 目の前に突きつけられた死を、どう受け止めればよいのか。極限状況での問いを、身をもって考え抜いた42歳の哲学者がいた。亡くなる直前までの2カ月間、生と死について思索した軌跡がのこされていた。

人生の不確かさ

 福岡大学准教授だった宮野真生子さん。7月、42歳で亡くなった。8年前に乳がんが見つかり、研究生活のかたわら治療を続けてきた。だが昨秋、主治医に「急に具合が悪くなるかもしれない」と病状の悪化を告げられた。

 宮野さんの専門は、『偶然性の問題』という主著がある哲学者・九鬼周造(1888~1941)の哲学だった。宮野さんは、出会いや恋愛、家族や性といった身近な題材も扱い、「偶然性」の問題を考えてきた。

 主治医の「宣告」は、自らの人生の不確かさに改めて直面する出来事だった。

 告知と同じころに出会ったのが、磯野真穂さん(43)だ。国際医療福祉大大学院准教授で、専門は医療人類学。人はなぜ、どのように生きるのか。生きるとはどういうことなのか――。分野は違うが互いの関心が近く、手紙を交わして本にする企画が浮上した。

「死んでも悔いなく」に感じた欺瞞

 手紙はメールで交わされた。1通目は、磯野さんからの4月27日付。急変の可能性を告げられた体験とその受け止めについて尋ねた。宮野さんは2日後、最初の返信をした。

 「『いつ死んでも悔いがないように』という言葉に欺瞞(ぎまん)を感じる」

 「死という行き先が確実だからといって、その未来だけから今を照らすようなやり方は、そのつどに変化する可能性を見落とし、未来をまるっと見ることの大切さを忘れてしまう」

 死に対する通俗的な見方に違和感を示した宮野さん。磯野さんは、医療現場での長年のフィールドワークの経験から応じる。たくさんのリスクを一つ一つ説明する医療者の話を聞いた患者は、自分の人生とは関係のない第三者の予測のなかで可能性が狭められてしまう構図がある、と。

 宮野さんは5月4日付の手紙で、自らの病院を回った体験を紹介した。「正しい情報に基づく、患者さんの意思を尊重した支援」によって、「選ぶの大変、決めるの疲れる」という心境を明かしている。

たどりついた結論

 手紙を交わす間に、宮野さんの…

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