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 奈良市の旧市街ならまちに町家の店を構える「洋食春」。オーナーの中林大樹さん(41)は、左腕に義手をつけて厨房(ちゅうぼう)に立つ。

 北九州市で生まれ、同市の洋食店で18歳から見習いを始めた。不注意で包丁で左手を傷つけたことをきっかけに、腕がうずく病気「反射性交感神経性ジストロフィー」に。

 最先端の治療をしてもらえる生駒市の病院に北九州市から通ったが、痛みは引かず、切断を持ちかけられた。店長になり、店を任された頃だった。

 「障害がありながらの社会復帰は難しいが、くつがえしてくれ。春は絶対に来る」。担当医の言葉に「どうせダメなら努力してみようか」と思った。

 担当医への恩返しは「働いている姿を近くで見せること」。手術後すぐに奈良に移住し、2011年に店をオープンした。店名は担当医の言葉からつけた。

 義手の左腕では感覚が変わり、食材を押さえるにも苦労した。目を閉じても切れるくらい、朝夜はキャベツの千切りを繰り返した。

 「できるんだって思えてうれしかった。料理が楽しくてしょうがなかった」

 今では行列ができるほどの繁盛店に。来店した担当医からは「無理したらあかんで」と声をかけられた。手術後も中林さんを見守ってくれている。

 同じ病気を抱えた人が来ることもある。「昔の自分だなと思っちゃう」。病気と付き合うアドバイスと一緒に、看板メニューのハンバーグを振る舞っている。(平田瑛美)