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 10月下旬に、名古屋市の市営バスで双子用ベビーカーの乗車が拒否されたというツイッターの投稿があり、ニュースになりました。

 名古屋市では大型バスなら双子用でもベビーカーをたたまずに乗ることが認められていますが、運転手は「常備されている車いす用スロープを使いたい」と言った女性に対し、応答しなかったようです。女性は1歳の双子を連れて、市役所まで40分歩いたとのことです。

 また、市バスの営業所に11月4日にあった問い合わせでも職員が「2人乗りのベビーカーに子どもを乗せたままでは乗車できない」と誤った説明をしたことがわかっています。SNSなどでは、双子や三つ子を抱える人たちから「子どもを抱っこしながらベビーカーをたたむなんて無理」といった反応が相次ぎました。

育児は1人でも大変なのに…

 今回は双子用のベビーカーだったため、多胎育児の過酷さも話題になりました。2018年には三つ子の子育てに疲れた母が、そのうちの1人を死なせてしまったという事件がありましたね。エレベーターのないマンションで、ワンオペ(1人だけで行うこと)で3人を育てていたようです。

 双子や三つ子の産まれる割合は、体外受精の普及によって急速に増えました。近年は横ばいの傾向にありますが、2017年には1.04%を占め、特に45歳以上では5.95%と多くなっています。一卵性双生児は時代や人種を問わずほぼ一定ですが、日本は晩婚化・晩産化しているため不妊治療で子どもを授かる人が増え、二卵性双生児が増えているのですね。

 私はNICU(新生児集中治療室)で働いていたので、こうした双子やそれ以上の子たちを何組も受け持ちました。

 双子のお子さんは見ている分にはとてもかわいいですが、授乳もオムツ替えも着替えも2倍の作業量になります。「トイレに行く暇もない」とか、「食事どころか睡眠時間もほとんど取れない」という話も聞きます。

 そして、少し大きくなってくると、大人が思いも寄らない行動をするものです。クリニックでも、双子に限らず年の近いきょうだいたちが、診察室で駆け回り、危険な器具を触ろうとし、母の注意を引きたがるという様子を見ていると、面倒を見る大人は1対1くらいほしいと思います。

 予防接種などでお母さん1人が3人を連れてきたときには、「よく無事にクリニックに来て、無事に帰って行けるな。なんて頑張っているんだろう」と感心します。

誰もが公共の乗り物に乗れるように

 さて、乗車拒否の件に話を戻すと、ネットでは今回のことで双子を連れた女性を批判する声も目につきました。「双子なんだからそのくらいは覚悟していろ」とか「育児は自己責任」という、聞くに堪えない意見もありました。

 さらにこの話題で気になったのは「市役所に行くためにどうしても必要だった」とか、「双子で大変だった」というような、母たちがやみくもに乗車を要求したわけでないと弁解し、説明するような伝え方があることです。

拡大する写真・図版イラスト・森戸やすみ

 ただ公共の乗り物を利用したい、ただ外出したいということは許されないんでしょうか? 「どうしても必要な外出だから乗せてあげて」、「多胎だから乗せてあげて」といわんばかりに見えます。

 多胎でも、子どもが1人でも、子どもでなくても誰でも外出しやすい環境にするというのは大事なことではないでしょうか。私は基本的人権の問題だと思います。

 13年に国土交通省が「公共交通機関等におけるベビーカー利用に関する協議会」を設置していますが、あまり知られていませんね。ベビーカーの使用者だけでなく、周囲にも理解と配慮を求める「ベビーカー利用にあたってのお願い」を作ったり、ベビーカーを安全に利用できる場所を示す「統一的なベビーカーマーク」を策定していたりします。「バリアフリー・ユニバーサルデザイン交通消費者行政/公共交通事故被害者支援」というページには「子育てにやさしい移動を応援しています!」という各種自治体や企業が並んでいて、日本バス協会も入っていました(http://www.mlit.go.jp/sogoseisaku/barrierfree/sosei_barrierfree_tk_000155.html別ウインドウで開きます)。

拡大する写真・図版ベビーカーマークの認知度アップを呼びかけるポスター=国土交通省のホームページから

 東京メトロではエレベーターのみで移動できるかどうか、オムツ替えのできるトイレがどこか、ホームのベンチの有無などをチェックできるスマホのサービスをはじめました(https://www.babymetro.jp/別ウインドウで開きます)。こういった取り組みが増え、浸透することを願います。

 子どもでなかった人はいないし、老いない人もいません。今回、聞くに堪えない“意見”を言った人は、自分が外出困難になったときのことも考えた方がいいと思います。ベビーカーや車いすなど、誰でも公共の乗り物に乗れるようにするということを考えるのは、すべての人にとって大事なことではないでしょうか。

<アピタル:小児科医ママの大丈夫!子育て>

http://www.asahi.com/apital/column/daijobu/

森戸やすみ

森戸やすみ(もりと・やすみ) 小児科医

小児科専門医。1971年東京生まれ。1996年私立大学医学部卒。NICU勤務などを経て、現在はどうかん山こどもクリニックに勤務。2人の女の子の母。著書に『小児科医ママの「育児の不安」解決BOOK』(内外出版)、共著に『赤ちゃんのしぐさ』(洋泉社)などがある。医療と育児をつなぐ活動をしている。