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 11年前に書いた記事について、うれしい知らせが届いた。

 その記事は「どんなかな? こんなかな? お仕事ノート」。大阪本社夕刊に2008年11月に掲載された。「○○になりたい」と夢見る子どもと一緒に、その職業の第一線で活躍する方に会いにいく連載企画だった。

 私が担当したのは、「騎手になりたい」という石堂響くん(当時9歳)。家族と一緒に年間20回ぐらいレースを観戦しているという少年だった。

 秋晴れの京都競馬場。響くんの前にあらわれたのは、あの武豊騎手だった。しかも、名馬ディープインパクトに騎乗した時の勝負服にわざわざ着替えて出迎えてくれたのだ。

 最初は緊張して言葉も出なかった響くん。武さんに手綱の持ち方などの指導を受けてサラブレッドに騎乗した。「馬の気持ちがわかりますか」などとメモを見ながら、一生懸命質問した。

 武さんは「騎手が好きという気持ちが一番大切」とアドバイスしてくれた。武さんに握手してもらった響くんは「競馬学校に入学したいです」と宣言。武さんは「将来、一緒にレースで馬に乗れたらいいね」と声をかけてくれた。

 と、ここまでが、当時の記事の内容だ。

 それから10年以上の歳月が流れたこの10月。20歳の若者となった響さんが、あの京都競馬場で武さんと一緒のレースに出るという知らせが届いた。響さんは昨年騎手デビューしていた。同僚であるスポーツ部の記者を通じて、響さんの父親の知人であるミズノの方から連絡をいただいた。

 当日は京都に足を運ぶことはできなかったが、競馬中継で観戦した。少年の日の面影を残す石堂響騎手が騎乗していた。ひとつの夢がかなった瞬間を目撃することができた。ご両親にも電話でお祝いの言葉を伝えた。

 あの記事が、ほんの少しでも夢への足がかりになったのなら、これほどうれしいことはない。記者をしていると、いいことも(たまには)あるんだな――。切りぬいた過去記事を読み返し、しばらく幸せな気分だった。(編集委員・清川卓史