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 多くの船が行き交う東京湾。4隻の漁船で巻き網漁に出た千葉県船橋市の漁師、大野和彦(60)は、スズキなどが入った網を上げるたび、取った場所の正確な位置、魚の体長、重さなどを細かく記録する。スズキの20センチ未満の幼魚は海にかえす。移動して網を入れるたび、同じ作業を繰り返す。

 魚を減らすことなく漁を続けられるように資源量を把握し、取り過ぎなどを控えるためだ。「資源を大切にする漁業の成功例を作り、子や孫に残したい」

 以前は「誰よりも多く取って『すごい』と言われたい」と思っていた。変わったのは2013年、東京五輪・パラリンピックの開催決定がきっかけだ。「選手村で江戸前の魚を振る舞いたい」と意気込んだが、知人に、日本で持続可能な漁業がほぼないままだと、魚は欧州産になりかねないと言われた。「なんだそれ」

 12年ロンドン大会以降、選手村などで使う食材の調達の基準が出来た。キーワードは「持続可能性に配慮しているか」。世界の天然魚の漁獲量の3分の1は取り過ぎといわれる。世界から選手や関係者が1万人以上集まり、大量の食材を使う五輪でも資源を守ろうという考えが出た。

 ロンドン大会で使われた天然魚は、世界で最も知られる「海洋管理協議会」(MSC、本部・英国)の認証品を使うのが原則だった。高いレベルの基準に沿って第三者機関が審査し、審査過程は公開される。日本で現在取得できている漁は3件のみ。15年に国連が持続可能な開発目標(SDGs)を定めると流れは定着し、同様の基準は翌年リオデジャネイロ大会にも引き継がれた。

 大野はセミナーなどに足を運び、競うように取っていたら魚がいなくなると気づいた。MSCの取得は東京湾全体での漁業の対策を求められるなどハードルが高い。昨年、より取得しやすい日本の民間団体の認証を得た。MSC取得も目標に日々取り組みを続ける。

 だが、東京大会の組織委員会が17年に決めた調達基準は、持続性を担保できる認証がなくても、行政が確認した資源管理計画があれば使えると認めた。SDGsの理念と逆に調達のハードルは下がった。資源管理計画は漁業者が作り、第三者の審査はない。計画通りに行うことも義務づけられていないからだ。この計画のもとでの漁が、国内の漁獲量の9割を占める。

 基準が決まった際、大野は、提供できる水準にある喜び、低い基準になったことの残念さ、複雑な思いを抱いた。

 東京大会は「おもてなし」をアピールして開催を勝ち取った。組織委の関係者は「基準を厳しくすれば国産品を使えないかもしれないという悩みがあった」と語る。だが基準づくりに有識者として関わった世界自然保護基金(WWF)ジャパンの小西雅子(61)は、危機感を隠さない。「過去2大会より後退してしまった」(神田明美、前田大輔)

東京大会組織委は夏季大会として初めて、準備段階からSDGsの考えに沿った持続可能性への配慮を求めています。なぜSDGsを掲げるのか、何が起きているのか。足元を探ります。

■農家の提供意向、必要量の13…

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