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【アピタル+】患者を生きる・職場で「卵子凍結保存」

 がんの治療により、生殖器官などがダメージを受けて、子どもができづらくなることがあります。そういった場合、治療前や治療中に、あらかじめ卵子や精子などを凍結保存しておくことで、将来子どもを授かる可能性を残すことができます。どんな病気の人が対象になるのか、治療を受けるにはどんな注意が必要なのか。滋賀医科大学産科学婦人科学講座の木村文則(きむらふみのり)准教授に聞きました。

拡大する写真・図版滋賀医科大学の木村文則医師=大津市瀬田月輪町

 ――妊娠する力(妊孕(にんよう)性)温存治療が今注目されるのはどうしてですか。

 背景にあるのは、がんが「死んでしまう病気」だったのが、生きられるようになってきたことです。ただ、一生懸命闘って病気が治っても、本来人として備わっていた機能、妊娠する力が失われてしまうことがあり、大きな問題とわかってきました。2017年に日本癌治療学会がガイドラインを出しました。

 ――どういった病気が対象になりますか。

 白血病などの血液腫瘍(しゅよう)、ホジキン病(悪性リンパ腫)、乳がん、卵巣がん、肉腫、脳腫瘍などです。抗がん剤のシクロホスファミドなどを使う場合、卵巣、精巣などへの放射線治療などは高リスクです。ただ、全てのがん治療が、妊娠する力に強い影響を与えるわけではなく、ほとんど影響がないものも多いです。

 ――がんや病気の種類によって、治療の経過はかわると聞きました。

 病気の進行具合などによりそれぞれ違い、あくまでもがん治療が優先されることになりますが、治療までに余裕がある場合も数多くあります。例えば乳がんは比較的、抗がん剤治療前に凍結保存ができるケースが多いです。白血病では、抗がん剤の点滴治療をいったんはじめてから、温存治療をするということもあります。

 ――がんがわかったとき、将来の妊娠についてはどういった心配事がありますか。

 まず患者さんが、自分ががんだと受け入れないといけない。がんの治療のこと、生きていけるのか、仕事はできるのか、教育は受けられるのか、結婚できるのかと考えるだけでもかなり精神的にパニックになります。その中ではありますが、(医師としては)期を逃さずに、この治療をすると将来的に妊娠することが少なくなってしまうというような話をしないといけません。患者さんや保護者の考えは様々で、視点が変われば、「正しい」ことは変わってきます。治療の中では、「今まで卵巣機能が悪くなると夫に申し訳なく、強い薬を使えなかった。これでがんばって治療できます」といった声もあれば、「がん治療が遅れることで娘の命が危険にさらされることに耐えられない」といった声も聞きました。

 ――実際に、残すと決めた場合はどうでしょう。

 卵子などを残したいとなったときには、二つ不安があります。卵子、卵巣を保存するには時間がかかる。がん治療を優先し、生殖細胞を保存しなかった場合、うまくがん治療はできても妊娠できないとなったら、数年後に「凍結しておけばよかった」と思うかもしれません。一方、凍結温存したけれど、がん治療が遅れた場合、結果として再発したら、何をしているかわからないと思うかもしれません。いずれにせよ、医師や臨床心理士、相談員などの心理的なサポートが必要です。

 ――自由診療ということもあり、費用も課題です。経済的な支援をする自治体も増えていますね。

 患者さんに多い20代、30代は経済的な基盤が弱いです。費用が治療をやるかどうかの決定因子になったという調査もあります。補助は、「不妊治療」ではなく、がん患者が、本来人の持っている機能をがんによって損なっていることに対して治療のサポートをしようということです。いち早く始めた滋賀県では、3年間で28人が利用しました。住んでいる自治体が制度を持っているか調べてみるといいと思います。

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<アピタル:患者を生きる・職場で>(杉浦奈実)