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 子どものころに受けた性暴力の被害は、心身に深い傷を刻み込み、その後の人生にも大きな影を落とします。この問題に詳しい精神科医の白川美也子さんに話を聞きました。

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 日本では、女子は2・5人に1人、男子は10人に1人が18歳までに、ちかんや裸の写真の撮影なども含む何らかの性被害を受けているというデータ(日本性科学情報センター「子どもと家族の心と健康 調査報告書」)があります。性被害は決して特異なことではありません。全国の児童相談所に相談が寄せられる親からの性的虐待は年間約1700件ですが、氷山の一角と思われます。また、家庭内での性被害より家庭外での性被害が多く、米国では1対3の割合です。

 私はこれまで多くの被害者を診てきました。被害を受けた子どもが思春期になって問題行動を起こすことは少なくありませんし、悪影響が生涯にわたることもあります。それは、つらい体験をしたことで、癒えない心の傷、いわゆるトラウマ(心的外傷)を受けるからです。

 被害のときの記憶は、五感、感情、認知や思考などがそのときのまま脳の中で「冷凍保存」され、なるべく思い出さないようにしまわれます。「解離」と呼ばれるものです。

 その後は、当時の記憶が無意識によみがえる「フラッシュバック(再体験)」や、感じなくていいようにさまざまな感覚を自分から切り離す「麻痺(まひ)」、神経が高ぶった状態が続く「過覚醒」が主な症状として出てきます。

 性的被害が続くと、深刻で複雑な慢性のトラウマとなります。幼いときの一度の出来事でも周囲にそのつらさを受け止める環境がなければ、複雑なトラウマを受けたような状態になります。

 日常的に繰り返されるトラウマの場合は、解離と麻痺が強く出ます。いずれも自分を守ろうとして起こるものですが、その結果として、気持ちや行動をコントロールできなくなります。怒りを身近にいる人に爆発させたり、自分自身に向けたり。自傷や自殺念慮のほか、自己破壊的な行動や、援助交際などの性行動、衝撃的で危険を求める行動を自ら進んでとることも珍しくありません。

 また、細かいことを覚えている一方で、記憶がすっぽり抜けていたりすることも起こります。頭痛、腹痛から始まり、全身の痛みなどの身体症状が出ることもあります。人を信じることができなかったり、相手に限界があることを認められずに無制限に期待を押しつけたり、加害や被害を繰り返してしまう対人関係も持ちやすくなります。

 実は、私自身、3歳のころと19歳のときに性被害を受けています。トラウマを受けた多くの当事者は「汚れてしまった」などの深い恥の意識を持ちます。恥は症状や問題行動に発展するさまざまな感情の根源になります。それは私の体験からも言えることです。

 当事者の方々には「恥ずかしくなんかない」「あなたはちっとも悪くない」と伝えたい。そして、それを社会の共通認識にしなくてはいけません。助けを求める声にきちんと応えていくことが被害者を支えるとともに、社会全体の安心につながります。(編集委員・大久保真紀