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 北海道浦幌町出身のマンガ家・吾妻ひでおさんが10月に亡くなった。1980年前後、不条理ギャグや美少女が登場する幻想的な作品で多くのマニアの心をつかみ、後年には仕事や家庭を放棄して放浪生活を送った体験をマンガに昇華した「失踪日記」(イースト・プレス、2005年刊)で第10回手塚治虫文化賞マンガ大賞、第9回文化庁メディア芸術祭マンガ部門大賞などを受賞。マンガ界に残した足跡をたたえる声は後を絶たず、11月30日には東京・築地本願寺でファン葬が行われた。吾妻さんに私淑していた北海道出身のマンガ家・唐沢なをきさんに今の思いを聞いた。

 ――吾妻作品との出会いは。

 結構早かったです。吾妻先生の初めての連載作品「二日酔いダンディー」(まんが王連載)を小学生の頃に見てショックを受けました。

 我が家は商売をやっていて、自転車など子供がほしがるようなぜいたく品は一切買ってもらえなかったけど、マンガ本や雑誌は買ってくれる家でした。なのでマンガは小さい頃から浴びるように読んでいました。当時から手塚治虫さんも石森(のち石ノ森)章太郎さんも大好きだったんだけど、やはり赤塚不二夫さんを始めとするギャグマンガに夢中でした。その中で出会った吾妻先生のマンガはとにかく異質でした。

 本当に不思議なマンガでした。少年誌に載っているのにぜんぜん少年誌っぽくない。出てくるキャラクターは冷めていて、主人公には黒目がない。ギャグもシュールなギャグばかりで「ここ、笑っていいの?」という感じ。単純に楽しむというより、何か怖いものを見てしまった気がしました。

 翌年の作品「ラ・バンバ」(少年チャンピオン連載)で、「もしかしてこのマンガ、すごく面白いんじゃない?」と初めて認識しました。数年後「ふたりと5人」(同)が始まったとき、吾妻先生自身は後にあの作品は気に食わないとおっしゃっていたけど、俺としてはすごくうれしかった。「マニアな趣味で頑張っていた吾妻ひでおが、メジャーの世界で頑張ろうとしている」と子供ながらわかりましたから。お色気と少年誌らしいドタバタがミックスされつつ、吾妻先生独特のシュールな笑いもあり、「これは吾妻ひでおの新境地だな」と毎週チャンピオンを楽しみにしていました。

 ――小学生のときからずっと見守っていた。

 「やけくそ天使」が載った青年誌も、吾妻先生目当てで買っていました。もう中学生になっていた頃かな、「プリンセス」という雑誌(秋田書店)が創刊されて、石ノ森章太郎先生や横山光輝先生といった大御所に少女マンガを描かせる企画をやっていたんです。そこに吾妻先生も「おしゃべりラブ」という作品を連載された。同級生に見られたら恥ずかしいので毎号こっそり買って、「少女雑誌だからネタをいろいろ選んでいるな、この人は」と思いながら読みました。女子読者にも人気だったようで、投稿欄に「登場人物の男の子の脚をもっと長く描いてください」なんて要望が寄せられていたのを覚えています。

「俺だけの吾妻先生」に私淑

 ――深く傾倒しておられたのですね。

 俺は専門学校でデザインを学んだ後、就職のために銀座のデザイン事務所に自分の作品を持ち込んだのですが、そこでケチョンケチョンにけなされた。帰りの電車で落ち込んで、「勇気を出して持ち込みをするなら、好きなマンガの方に挑戦してみよう」と思ったのがマンガ家を目指したきっかけでした。

 それはちょうど吾妻さんが、「不条理日記」(自販機雑誌などに掲載された代表作)や美少女マンガを描くようになってマンガファンの人気が急上昇していた頃。周りにいるやつらがみんな「俺、吾妻ひでお好きなんだ」と言い出し、吾妻マンガの「シッポがない」とか「ナハハ」とか定番キャラクターを自分のマンガに臆面もなく描くやつらが増えた。俺はそれがなんか嫌で、「お前が考えたギャグじゃないだろう」「こういうマンガを描くやつは俺の敵だ」「どいつもこいつも吾妻ひでおのファンとは俺は認めない」と一人で憤っていました。

 ――大好きな作家に対する侮辱と思われたのでしょうか。

 世の中には赤塚先生とか山上たつひこ先生とか、敬愛するギャグマンガ家はいっぱいいました。でも、吾妻ひでお先生に関しては敬愛はするんだけど、もう自分の一部、自分とは切り離せないと思い込んでいたんですよ。そこに他のやつらが入ってきてほしくない、というものすごく狭い了見、マニア的な思考が自分の中にありましたね。それぐらい大事な先生でした。

 ――同じマンガ家という道を選ばれてからも、寄せる思いは変わらなかったですか。

 自分がデビューする前後の作品…

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