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 ベイルート中心部にあるゴーン前会長の自宅周辺には12月31日午前、20人ほどの報道関係者が次々と集まり、近隣住民が遠巻きにその様子を眺めていた。

 家に人気はあるものの、呼び鈴を鳴らしても応答はなかった。ガレージの門を開けて一瞬姿を見せた男性に、「ゴーンさんは中にいるのですか」と尋ねたが、男性はアラビア語で怒鳴り声を上げて、再び中に入っていった。

 地元メディアでは、ゴーン前会長はアウン大統領と面会し、政府から厳重な警備を受けているとの報道も出ている。

 産業がとぼしく汚職などで財政危機に苦しむレバノンは、海外に住むレバノン人による送金によって、財政赤字の穴埋めなどをしてきた。このため、国際的に活躍する人物の存在は、レバノン経済で重要な役割を担ってきた。ゴーン氏はこうした経済人の典型例として知られ、レバノン国内で天才的企業家として評価されてきた。このため、最近までは将来の大統領候補などとたたえる声もあった。

 ゴーン前会長の自宅近くの美容院に勤める男性は、「ゴーン氏はレバノンで罪に問われているわけではなく、私と同じ一人のレバノン市民。歓迎する」と話した。さらに空調機器販売業のジョージさん(53)も、「ゴーン氏をめぐる何百万ドルという金額は、銀行の窓口に並んで数百ドルを引き出すのもやっとという市民の生活とあまりにかけ離れている」としつつ、「日本ではゴーン氏の件は大きな問題かもしれないけど、レバノンには害はない」と語った。

 ただ、ゴーン氏をめぐるレバノン国内の評価も変わりつつある。同国では昨年10月中旬から政府の腐敗に反発するデモが頻発。ゴーン氏も、レバノン政治を腐敗させた既得権層とその腐敗の一部として見なされ始めている。現地のジャーナリストは、「政府がゴーン氏を支援するなら、デモに加わった若者らからは否定的な反応が出てくるかもしれない」と話した。デモに参加したことがある元学校職員ワッファ・アブシャクラさん(44)は「市民たちは仕事もなく社会福祉も不十分で子供たちは満足な教育も受けられない。エリートだけが汚職で自分たちの富を増やしている。ゴーン氏もその一人だ。悪いことをしたなら、裁かれるのは当然で、私は歓迎できない」と語った。市民の間では「次の内閣にゴーン氏が腐敗の専門家として入閣するかも」というジョークも語られ始めていた。(ベイルート=其山史晃、テヘラン=杉崎慎弥