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 自身がADHDの特性を持ちながら子育てに奮闘している主婦リョウさんについてのお話を続けます。

 リョウさんは、幼稚園年長児の我が子の持っていくものの準備をすべてしてあげています。しかしあと半年もしないうちに小学校に入学することを考えると心配しています。今回は、子どもが忘れ物をしないようにするための準備について、考えていきたいと思います。

生きるのがつらい女性のADHD
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学校へ行く準備、自然とできるように?

 小学校に入学すると、時間割に応じて教科書だけでなく、体操服や空き箱、各種提出物を準備して持っていかなければなりません。家庭や学校の教育方針にもよりますが、遅くとも3、4年生の頃には、子どもが自分でこれらの持っていくものを準備できるようになるのがゴールです。

 この作業、入学前の5歳児にはなかなか高いハードルだと思いませんか? 自分で今日過ごす1日をイメージして、必要なものを心の中でリストアップし、リストアップされた項目のものを漏れなくチェックしながらランドセルに詰めるという能力が必要なのです。

 こうして書くと簡単に見えますが、実際はもう少し複雑です。やれ、体操服を持って行こうとしたらまだ洗濯して乾いていなかったとか、学校からもらってきて親のサインが必要なプリントを出さないままだったとか、宿題のプリントを学校に忘れてきていてできないとか、口頭で先生が言ったことでよく覚えていないけどなんか折り紙がいるらしいという不確かな情報があるとか……。

 「小学3年生にもなれば成長するし、しっかりしてくるはず」と時間経過に期待を込めて、うまくいく場合もあります。しかし、一方で高校3年生まで親が持っていくものをすべてそろえてあげていたというケースもあるのです。親の方も好きで世話をしていたわけではないでしょう。きっとその子どもが忘れっぽいタイプで、見るに見かねた親が心配して転ばぬ先の杖をついてあげたのかもしれません。

 なるべくなら、親が先回りするのではなく子ども自身に徐々に責任を負わせながら、忘れ物をしないためのスキルを段階的につけていく必要がありそうです。こうした能力を、「自然と」身に付けられる子どももいますが、ADHDを含む発達障害の特性をもつ子どもの一部には、その子どもに入りやすい方法でしっかり教えていく必要があります。

 「その子どもに入りやすい」。これがけっこう難しく、最大のミソでもあるようです。要は、その子どもが理解しやすいような方法でわかったかどうか確認しながら教えるのです。子どもによって、得意な学習の型がそれぞれなのです。

 いずれにしてもまずは、子ども自身に忘れ物をせずに持ち物をすべて持っていくことに対しての動機付けを図ることが大切です。やる気がでないと、やり方を覚えようとしないからです。「忘れ物をしないようにしなくちゃ」と意気込んでいる5歳児はあまりいないことでしょう。

やる気を出すにはご褒美作戦を

 やる気を出す方法にはさまざまありますが、こんなふうにも大別できます。ひとつは、「それをすれば、結果いいことが起こるからする!」というやる気の持ち方です。要はご褒美作戦です。

 もうひとつは、「それをしないと悪い結果になってしまう」というやる気の持ち方です。叱られるから、人に迷惑をかけるからなどが悪い結果に当たります。アメとムチといった表現をする人もいるかもしれません。

 みなさんは日頃やる気を出すときにどちらを使っていますか?

 私がおすすめするのは前者のご褒美作戦です。この作戦ですと、ポジティブな気持ちで取り組むことができるからです。後者の作戦ですと、叱られたり人に迷惑をかけたりするイメージに圧倒されておびえながら取り組むため、子どもはびくびくしてしまいます。そんなふうに追い詰められながら毎日を過ごしてほしいでしょうか。

 また、もしできなかったときに悪い結果が待っているとしたら、「やったよ」とうそをついたり、ごまかしたりするかもしれません。ストイックな人ほど後者を用いたがりますが、ご褒美作戦の方がのびのびとした人生を送れると思いませんか?

 長い目で見ると、後者の作戦では、こんなリスクがあります。ある会社でノルマに追われていた男性が、退職後なにをする気にもならないとおっしゃっていました。そうです。会社のノルマが達成できなかった時の上司からの叱責(しっせき)、妻の小言などがなくなった今、どうやってやる気を起こせばいいのかわからなくなったのです。

 だからその子どもが何か喜ぶことが、持っていくもの準備の最中や直後に起こるような仕組みを作ることが必要になります。

 いくつか例を挙げますので参考になさって、お子さんに響きそうなご褒美を考えてみてください。

 【例①】 競争好きな子どもには、「持ち物を全部カバンの中に入れるのと、ママが洗濯物を干すのどちらが早いか競争しよう!」と持ちかける。

 【例②】 色合わせが好きな子どもなら、赤いタオル、赤いティッシュ、赤いはし袋……のように曜日ごとに色を分けて集めてかばんにいれること自体を楽しむ。

 【例③】 持って行く物リストをホワイトボードに書いて、持って行く物をかばんに入れるたびに磁石を動かして達成感を味わう。

 【例④】 カレンダーの自分で用意できた日に○をつけて、10個たまったら好きなおもちゃが買ってもらえる。

 【例⑤】 (小学生になることに憧れのイメージを植え付けた上で……)「小学生になる練習してみる?ちょっと難しいかもだけど、やってみる?」と5歳児のプライドをくすぐって、チャレンジさせる。

 いかがでしたか?

 意外と普通のアイデアばかりでがっかりなさった方もいらっしゃるかもしれません。ただし、ここからがこれらを下支えする下準備です。5歳児になんとかして準備に「成功」してもらう下準備をするのです。

拡大する写真・図版イラスト・中島美鈴

 たとえばこのイラストのように、持って行く物が一目でぱっとわかるような配置にしておくことです。引き出しの中とか目に見えない収納にするのではなく、かごにひとまとまりになっているとベストでしょう。それがかばんの近くにあることもポイントです。

 こうした物理的な下準備は案外明暗を分けます。親はそっと黒衣に徹してお膳立てしながら、5歳児に「できた!できたぞー!」という達成感を味わってもらいましょう。最初のイメージは本当に大切です。

 次回は、小学生に向けてもう少しレベルアップした持ち物準備をリョウさんが我が子とともに実践していきます。

<アピタル:上手に悩むとラクになる・生きるのがつらい女性のADHD>

http://www.asahi.com/apital/healthguide/nayamu/

中島美鈴

中島美鈴(なかしま・みすず) 臨床心理士

1978年生まれ、福岡在住の臨床心理士。専門は認知行動療法。肥前精神医療センター、東京大学大学院総合文化研究科、福岡大学人文学部、福岡県職員相談室などを経て、現在は九州大学大学院人間環境学府にて成人ADHDの集団認知行動療法の研究に携わる。他に、福岡保護観察所、福岡少年院などで薬物依存や性犯罪者の集団認知行動療法のスーパーヴァイザーを務める。