拡大する写真・図版 パラテコンドーにチャレンジする香取慎吾さん=2019年11月7日午後、東京都品川区、川村直子撮影

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香取慎吾とゆくパラロード

 朝日新聞パラリンピック・スペシャルナビゲーターの香取慎吾さんがさまざまなパラ競技に挑戦する「慎吾とゆくパラロード」。12回目は、東京パラリンピックから正式種目に採用されたパラテコンドーです。香取さんは道着に身を包み、男子61キロ級の伊藤力さん(34)と対戦。回し蹴りも繰り出しました。

 香取さんは胴体にプロテクターをつけ、伊藤さんの蹴りを腹に受けてみた。

紙面でも
香取慎吾さんのパラテコンドー体験は、12月21日付朝刊スポーツ面の「慎吾とゆくパラロード」でも、1ページを使って紹介します。

 《グワッ》

 腹を押さえる香取さん。

 《久々、この感じ。昔、テレビ番組でプロレスラーにやられたような……。体の奥に深くくる。これがテコンドーの技なのか。》

 香取さんがふと横を見ると、モニターには「2」と表示されていた。

 《何の数字ですか?》

 伊藤さんが質問に答えた。

 《あの数字は僕の得点です。蹴った瞬間の電子音は有効打を知らせる音で、パンチが得点にならないこの競技は、主に胴部への蹴りでポイントを稼ぎます。》

 伊藤さんは香取さんへの蹴りで2点を獲得。得点は蹴りの種類で異なる。シンプルな蹴りは2点。180度の回転が加わった後ろ蹴りは3点。さらに体を360度回しながら繰り出す蹴りは4点となる。

 試合では、上肢障害の選手が足技を駆使して得点を奪い合う。伊藤さんは戦い方のセオリーは相手の弱点を狙うことにあるという。

 《僕は右腕がないので、相手は体の右側を狙ってきます。だから左腕でガードしたり、相手の懐に入って距離を詰めたりして、蹴りを防ぎます。》

 最後に香取さんは伊藤さんと2分間勝負に挑んだ。といっても伊藤さんは攻撃禁止の特別ルール。香取さんはとめどなく蹴りを繰り出した。残り数秒で最後の蹴りが腹をとらえたが、触れただけで得点にはならなかった。息が上がりへたり込んだ香取さんに、伊藤さんは言った。

 《試合ではあんなに蹴り続けることはないですよ。駆け引きも重要なので。》

 香取さんは苦笑した。

 《なんだ、そうなの。でも、テコンドーのルールって思っていたより簡単。観客としても入りやすいですね。》

「楽しみがまた増えた」

 伊藤さんは4年前、職場での事故で右腕を失った。

 《2、3日は気がめいっていた。でもネガティブに考えても腕は生えてこない。逆に、障害者になったんだからパラスポーツをやろうと思ったんです。》

 サッカー好きの伊藤さんは2カ月後、下肢切断の選手が松葉杖でプレーするアンプティサッカーのチームにGKとして参加した。そこで、パラテコンドーを知った。フィリピンで開かれたアジア選手権に出場したのは事故から1年後だった。香取さんは驚いた。

 《多くの選手とお話をしてきたけど、競技との出会いや国際大会出場までのスピード感が信じられないぐらいに速い。》

 伊藤さんは言った。

 《パラの選手は腕がなかったり、足がなかったりするけど、みんな前向きなんですよ。自分の障害をネタにして笑い合う。そういうコミュニティーに早いうちに入ったのはよかったのかなと思います。》

 東京パラリンピックは8カ月後に迫る。伊藤さんは誓いを口にした。

 《金メダルはマスト(必須)、と思っています。》

 香取さんはうなずいた。

 《僕も今、そう思って生きています。誰になんと言われようと、トップをめざそうよって。高みを見据える伊藤さんは素敵。2020年の楽しみがまた一つ増えたような気がします。》(菅沼遼)

     ◇

 伊藤力(いとう・ちから) 1985年、仙台市生まれ。2015年4月、北海道の勤務先の工場で機械に挟まれる事故に遭い、右腕を切断。16年、パラテコンドーを本格的に始めた。18、19年に全日本選手権を2連覇。世界ランキングは9位(12月現在)。セールスフォース・ドットコム所属。