工作員、好きになってしまった 彼女が正男氏を殺すまで

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ジャカルタ=乗京真知
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 北朝鮮の金正恩(キム・ジョンウン)朝鮮労働党委員長の兄、金正男(キム・ジョンナム)氏が2017年2月13日朝、マレーシアクアラルンプール国際空港で殺害されました。正男氏の顔に毒を塗ったとされるのが、インドネシア人のシティ・アイシャ元被告(27)です。3日後の16日に殺人容疑で逮捕され、拘置所に入っていた彼女が、関係者と面談した際の発言録と、警察に語った供述調書の主要部を取材で入手しました。そこには工作活動とは無縁だった彼女が、北朝鮮工作員の甘言に乗せられた経緯や、高額報酬に釣られて言われるがままに行動した心理が、生々しくつづられています。

マレーシアにいた理由

 私は14年までインドネシアのバタム島で(洋服販売員などとして)働いていましたが、15年初めにバタム島からフェリーに乗り、(マレーシア南部の)ジョホールに渡りました。そこから友達を頼ってクアラルンプールに行き、しばらくの間、カラオケ店で男性客の相手をして働きました。15年10月には(クアラルンプール東郊の)アンパン地区にあるフラミンゴホテルのマッサージ店で、マッサージ店員として働き始めました。月収はお客さんの数によるのですが、3千~4千リンギ(約7万8千~10万4千円)ほどで、不安定でした。そのため、副業としてクアラルンプールのナイトクラブに繰り出し、男性の相手をするようになりました。(供述調書から)

ジェームズとの出会い

 17年1月初め、ビーチクラブという名のナイトクラブにいたときのことです。午前3時ごろでした。「ジェームズ」を名乗る男性が現れ、自己紹介をしました。ジェームズは「自分は日本人だ」と言いました。さらにジェームズは「日本で放送される予定の『いたずら番組』に出演する気はないか?」と聞いてきました。ショッピングモールで(通行人に)いたずらする場面を撮影するらしく、出演料は1回400リンギ(約1万円)という説明でした。私は冗談だろうなあと思ったので、その場では返事をしませんでした。連絡先を交換して別れました。

 次の朝10時ごろ、ジェームズから電話がかかってきました。11時に(クアラルンプール中心部のショッピングモール)パビリオンの噴水前に来てくれという依頼でした。噴水前に行くと、ジェームズが待っていました。隣には見知らぬ女性もいました。ベトナム人だと言っていましたが、名前は聞きませんでした。まずはお手本として、その女性が通行人にいたずらをするのを遠くから見ていてほしいと言われました。

 ジェームズは女性の手にローションを垂らしました。続いて、女性がその手で通行人の男性の手を触り、驚かせるという、いたずらをしました。それが終わると、ジェームズは私のところに近づいてきて、「いまと同じ要領でいたずらをしてほしい」「いたずらをした後は、すぐに逃げるように」と言いました。そしてジェームズはローションが入ったボトルを取り出して、私の手にローションを垂らしました。ローションはベビーローションと同じにおいでした。ボトルには触らせてくれませんでした。いたずらの後、ジェームズから出演料400リンギを受け取りました。

 その後、(クアラルンプール中心部にあるショッピングモールの)KLCCでも撮影し、近くのケンタッキーフライドチキンでジェームズから出演料600リンギ(約1万6千円)を受け取りました。

 翌日も撮影に呼ばれました。KLCCでお茶をした後、ジェームズは、近くにある(正男氏がよく泊まっていた五つ星ホテルの)マンダリンオリエンタルホテルのロビーでいたずら撮影をしようと言いました。このときはローションではなく、ペッパーソースを使いました。撮影を終えた後、近くの公園でジェームズから出演料600リンギ(約1万6千円)を受け取りました。

 その翌日も、またジェームズ…

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