加治隼人
三条通りの雑居ビル5階にあるライブハウス。昨年末の夜、ミラーボールの光がちらついていた。30人ほどの若者が酒を片手にバンド演奏を楽しんでいる。ほの暗い店内にマラカスのような軽やかな音、ドラムのような重低音が響く。
「実は段ボールでーす」
打楽器奏者のスティーヴ・エトウさん(61)が曲の合間に明かした。曲調に合わせて段ボール箱を自在にたたき分け、ライブが終わると手際よく畳み、脇に抱え去っていった。
ならまちの工房「太古堂」の店主でもある。売れ筋は、自分でデザインした「イヌ」を手作業で印刷したTシャツやバッグだ。
5年前、東京から奈良に移り住んだ。「見た目がお坊さんみたいだからか、やたらお坊さんと仲良くなって。伝統行事も面白くて、気付いたら奈良に来てた」
◇
1958年、米ロサンゼルスで生まれた。父は箏曲家の衛藤公雄さん。ニューヨークのカーネギーホールで公演するほど人気を博した。家族で6歳のころに東京へ引っ越した。
「父親と比べられるのはごめんだ」と音楽の世界は考えてもいなかったが、高校時代はフォークブーム。友達がギターやピアノに手を出す中、「たたくだけならできるかも」とパーカッションを始めた。
大学に入って渋谷のライブハウスで友達と演奏していると、プロの音響担当者にスカウトされ、西田敏行さんのツアーを手伝うことに。小泉今日子さん、藤井フミヤさん、布袋寅泰さん、大黒摩季さんらのステージで演奏するようになっていた。
東京の生活は充実していた。「でも、今思えば、回転する車輪の上で一生懸命走らされてる感じ。スクラップ・アンド・ビルドでどんどん変わる街がだんだん寂しく思えてきた」
2003年に鹿児島の奄美大島…
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