ビールの伝説の注ぎ手引退、「一杯入魂」全力注いだ人生
矢田萌
「ミュンヘン新宿西口ハルク店」には、舌の肥えたビール好きや、全国各地の注ぎ手たちが集まる。週に1、2回、「伝説の注ぎ手」とうたわれる八木文博さん(77)のビールを味わうためだ。
生ビールはタンクからホースを通り、注ぎ手が「スイングカラン」と呼ばれる蛇口をひねることで、右回転でジョッキに注がれる。この回転数が大事で、八木さんによると、グラスの中で3回転から5回転させると、「注ぎ終わったあとに泡がすーっとあがり、柔らかい味になるんです」。
八木さんがミュンヘンなどビアホールを経営するニユートーキヨーに入社したのは、1966年、24歳のときだった。初めはビールの味はわからなかったが、あるとき、先輩が注いだあとにこぼれたビールを飲んでみた。同じビールのはずが、注ぎ方ひとつで、ここまで味が変わるのかと驚いた。
そこから、見よう見まねで勉強する日々が始まった。
グラスやジョッキの持ち方…