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 私たちの団体(一般社団法人CSRプロジェクト)は今夏、50代以降のがん患者を対象に定年後の働き方について、ウェブ上で全国調査を実施しました。206人から回答が集まり高齢者の雇用継続が難しい状況がわかってきました。前回に続いて今回も調査結果の内容を紹介します。特に、がんとわかって職場を離れなければならなくなった要因を探り、そうした事情からくるがん患者の将来への不安について考えてみました。

強まる罪悪感や責任感

 私たちの調査では、就労継続に影響を及ぼした事項を、身体、社会、心の3つの側面から考えられる21項目の選択肢の中から上位5つを選択、順位付けをして回答してもらいました。

 その結果、就労継続に影響を及ぼした事項の1位は「体力が低下したため」、2位が「治療に専念したいと思った」、3位が「薬物療法の副作用」、4位が「職場に迷惑をかけると思った」、5位が「体力に応じた働き方の選択が困難」「職場で居づらさを感じた」となりました。(図1)

 20代~40代のがん経験者を交えた、過去の別の調査では、1位は「体力が低下したため」、2位が「価値観が変化した」、3位が「薬物療法の副作用」、4位が「職場に迷惑をかけると思った」、5位が「通院時間の確保が困難」「働くことがストレスに感じた」という順位になっていました。

 今回の調査と比べると、50代後半以降の患者さんでは、「治療に専念したいと思った」「体力に応じた働き方の選択が困難」「職場で居づらさを感じた」などが特徴的な要因になっていることが分かります。

 50代後半にもなれば、多くは社会経験30年以上というベテラン社員です。仕事の工程や全体像を俯瞰(ふかん)できる方や、部下を抱えた管理職という立場の方、「病気で休む」ことに罪悪感や責任を感じる方もいるでしょう。離職をされた方の27%が、診断から1カ月以内という早期離職であることからも、こうした要因が影響したのではないかと推測できます。

 周囲にも、実際にがんになられた人が増えてくる年代です。その人が持っているがんに対するイメージによっては、「もうだめだ、働けない」「がんなのだから、治療に専念しなければならない」と思い込んでしまう方もいるのではないでしょうか。

拡大する写真・図版12月に厚生労働省が大阪市で開いた「令和の働き方改革 両立支援が会社と社員にもたらすもの」をテーマにしたシンポジウム会場。数百社の企業などが参加して取り組みを議論した。

 さらに60代の就労者では、傷病手当金や老齢年金、失業給付(雇用保険)、障害年金など、社会保険の選択肢がとても多様化、複雑化します。そのため、今の仕組みの下では、働くよりも離職をした方が、収入も維持できるケースがあります。

 こうした、生きがいか収入か、それとも治療かと、悩むようになケースでは、まずは社会保険労務士などに、これからの将来設計とあわせて相談をしてみることをお勧めします。

8割以上に「老後の不安」

 50代後半となれば、これからの老後についても考えるタイミングです。私たちの調査の回答者の平均世帯年収は647.7万円(個人年収は478.3万円)と、一般的な60代前半の平均年収396万円(2017年分民間給与実態統計調査結果)と比べて、かなり高収入な方たちでした。

 ところが、「老後の不安は感じていますか?」という質問に対して、85.5%の人が「とても不安、少し不安」と回答しました。このことから、「収入があれば老後の不安が消える」わけではないことが分かります。(図1)

 回答者の8割が1人以上の子どもがいる世帯でしたが、介護の担い手について、52.4%の人が「いるけど頼めそうもない、いない」と回答、17%の人は、こうした老後への不安を誰にも相談していません。地域との関係が希薄なことも特徴的です。

 地域の中で自分の居場所やつながりを作っていくことは、定年退職後において、万が一の備えにもなります。大企業では40代~50代を対象にした「早期退職の募集」を行う企業も増えていますから、人生の後半戦に向けて、仕事だけではないセカンドキャリアの検討や、老後の生き方を、前もって家族で話し合っておくことが大切です。

来年に法改正の動き

 厚生労働省は、65歳までの継続雇用が2025年度から完全義務化されることに合わせ、2020年の通常国会で雇用保険法の改正案を提出する予定です。この中では、高年齢雇用継続給付の見直しなど高齢者雇用を前提とした様々な社会保障の改訂も行われていきます。将来の生活や治療継続にも直結していく大切な議論ですから、議論の行く末には注視をしていきたいと思います

 年内の連載はこれにて終了になります。来年はいよいよオリンピック・イヤー。笑顔の多い1年になることを祈っています。

「50代からのがん生き抜き方調査(2019年7月)」
一般社団法人CSRプロジェクトとして取り組んだ私たちの調査の詳細をぜひご覧ください。

<アピタル:がん、そして働く>

http://www.asahi.com/apital/healthguide/cancer/

(アピタル・桜井なおみ)

アピタル・桜井なおみ

アピタル・桜井なおみ(さくらい・なおみ) 一般社団法人CSRプロジェクト代表理事

東京生まれ。大学で都市計画を学んだ後、卒業後はコンサルティング会社にて、まちづくりや環境学習などに従事。2004年、30代で乳がん罹患後は、働き盛りで罹患した自らのがん経験や社会経験を活かし、小児がん経験者を含めた患者・家族の支援活動を開始、現在に至る。社会福祉士、技術士(建設部門)、産業カウンセラー。