拡大する写真・図版 左から今田耕司、ミルクボーイの駒場孝、内海崇、上戸彩=2019年12月22日、東京・六本木のテレビ朝日、篠塚健一撮影

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 サッカーに例えるなら、パサーでアシスト役に徹するのがボケ、ストライカーとしてゴールを量産するのがツッコミ、という感じか。ボケの島田紳助やビートたけしがツッコミが制御できないほどボケて笑わせた、1980年代の漫才ブームはまさに遠き昔。12月22日の「M―1グランプリ2019」を東京・テレビ朝日のスタジオで観戦し、ツッコミ役が主導権を握るいまの漫才の潮流を感じた。

 抽選で10組のうち、早くも2組目でかまいたちが登場。3組目に敗者復活戦組の和牛。優勝候補の2組が、序盤で高得点をたたき出した。1本目の残る楽しみは、これから出てくる7組のどこが最終決戦に滑り込むか、だと思っていた。

 ところが、この2組に大差をつけて1位で最終決戦に進んだのは、7組目のミルクボーイ。ボケの駒場孝がオカンが好きな食べ物の名前を忘れたと言いだし、ヒントを与えては内海崇が突っ込む。肯定にせよ、否定にせよ、いったんシンプルに反応して具体的な理由を言い足す。ここから重ねるツッコミが「言われてみれば」と、腑(ふ)に落ちる中身で笑いを生み出す構造だ。

 持ち時間4分のM―1はボケ数の多さが重要とよく言われるが、標準語では冷たく感じられがちな言葉におかしみを宿せる関西弁で口跡良く、声に張りがあり、はや過ぎない内海のツッコミ。観客を取り残さない聴きやすさで、大きな笑いというゴールを外すことなくことごとく決めた。

 これとは異なるツッコミ役のあり方で旋風を巻き起こしたのが、10組目のぺこぱだった。ビジュアル系の髪形とメイクでのぞんだ「キャラ芸人」松陰寺太勇(しょういんじたいゆう)がシュウペイに突っ込むと見せかけては、派手なアクションをつけてボケを許し続ける。そして「どうも、ありがとう」の決め言葉。アーティストが漫才のツッコミをやったら……という斬新な感覚だった。

 関西らしい生活感にあふれる突っ込みのミルクボーイと、格好をつけながら突っ込むことをやめてみせる東のぺこぱ。両極に位置しながらもボケ役は脇役で、ツッコミ役が主役というスタイルは共通していた。

 結局、2点差の僅差(きんさ)でぺこぱが和牛をかわす。3年連続準優勝の和牛は、4位で最終決戦に進めず。披露したのはボケとツッコミのバランスが良く、スピード感のあるスマートな漫才。寒風吹きすさぶ野外での敗者復活戦を見事に突破したが、M―1は一体どこまで彼らに試練を与えるのか。

 最終決戦に残ったもう一組、かまいたちはテクニックが卓抜だった。ボケの山内健司とツッコミの濱家(はまいえ)隆一の言い合い漫才。ネタの流れで自然と互いに観客に同意を求め、常に一体感を保って盛り上げる。だからこそ、ささいな話題でも笑いがふくらむ。とりわけ1本目は圧巻の出来だった。観客を巻き込む意識がより前面に出ていたのはぺこぱ。松陰寺は観客を見つめてはアピールする派手な動きを繰り返し、「そうだろう?」と同意を求めた。

 その点、頂点に立ったミルクボーイは、シンプル過ぎるほどシンプル。巧妙に計算された観客への投げかけや動きといった細工はなく、純粋にしゃべくりとネタの面白さで勝負していた。そこにあったのは、聴くだけで笑える漫才。ラジオなら、面白さはよりずば抜けて感じられたかもしれない。

 結成15年以内の漫才の王者を決めることを掲げつつ、新たなテレビスターを生む大会という側面も大きいM―1。ミルクボーイがこれからどんな道を歩むかはわからないが、年末も押し迫って「今年、テレビで初めて漫才をした」という彼らの優勝は、全国の無名コンビにサンタクロース並みに夢を与えたに違いない。(篠塚健一)