東日本大震災で会えなくなった人に思いを伝える「風の電話」。岩手県大槌町の民家の庭に置かれた電話ボックスの周りには、被災者のための図書館や遊び場が整えられてきた。10年目を迎え、癒やしを求めて多くの人が訪れるようになったが、存続が見通せない状況になっている。
早期退職後、1人でこつこつ
会社を早期退職した佐々木格(いたる)さん(74)は1999年、隣の釜石市から、海岸を望む大槌町吉里々々(きりきり)の鯨山中腹に夫婦で移り住んだ。ガーデンデザイナーの傍ら、ほぼ1人でこつこつと4千平方メートルの荒れ地を英国風ガーデンに変えていき、「ベルガーディア鯨山」と名付けた。
大槌町では震災で人口の1割近い1286人が犠牲になったが、高台で暮らす佐々木さんは無事だった。「自分は、何をするために生かされたんだろう」。自問自答の末、被災者に庭を開放することにした。
石積みの図書館、ツリーハウス…
中古の電話ボックスに電話線のない黒電話を置いた「風の電話」は元々、病死した人に遺族が思いを伝えられるようにと設置した。だが、震災遺族らのためにもと考えて2011年4月、電話ボックス周辺を「メモリアルガーデン」として整えた。
6月には、パン店を津波で流された女性のため、納屋を改良してカフェとして無料で貸した。翌12年春には、3年間石を積んで造った建物が完成。仮設住宅暮らしの親子が過ごせるようにと「森の図書館」にした。全国から貴重な絵本など3千冊が寄付された。
その年の冬には、仮設住宅に…