第8回どちらでもない、それが「僕」 自分らしい名前を名乗る
花房吾早子
米ロサンゼルスに住む「美佐子」さんは、男でも女でもないエイジェンダー(無性)と自認している。それゆえに生まれながらの名前にずっと葛藤し、自分らしくあるために新しい名前をつくった。それは――。
「美佐子、散歩に出るなら何時?」。昨年11月28日、家族や友人が集まる米国の祝日「感謝祭」。食事を楽しもうとロサンゼルスのアパートにやって来たジェームズ・ローリツェンさん(56)が台所に立つ美佐子さん(48)に声をかける。20年前まで夫婦だった2人。「私にとってはいつまでも美佐子。新しい名前も呼べるようになりたいけど」
経営コンサルタントとして日米を行き来する美佐子さんは、長崎県佐世保市で生まれた。10歳上の姉、3歳上の兄のあと、父は「もう1人男の子がほしい」と思っていたと聞かされた。
一人称はいつも「僕」。自分で女の子と思ったことは一度もない。幼稚園では女の子と遊ぶのが嫌だったが、男の子の仲間にも入りたくなかった。
小学生のとき、ずいぶん前に撮ってもらった写真を家で見つけた。肩くらいまでのカールした髪に、白のセーターとピンクのズボン。3歳ぐらいの自分はうつむいていた。その写真をアルバムからはがし、裏にこう書いて貼り直した。
「なぜ、どんなにねがってみ…
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