拡大する写真・図版シップ・インで提供されたスターゲイジー・パイ=2019年12月23日、英南西部マウゼル、下司佳代子撮影

[PR]

 1年半ほど前。日本の姉から届いたメールには、うつろな目をしたイワシの頭と尾っぽが突き出たパイの写真が添付されていた。ネットで英国名物を探していて見つけたという。

 英国でパイといえば、スイーツとしてではなく、食事やスナックとして出されることが珍しくない。肉も魚も野菜も、何でもパイに入れる。パブ料理としても定番だ。

拡大する写真・図版取り分けてもらったスターゲイジー・パイ。イワシの頭はおまけだ=2019年12月23日、英南西部マウゼル、下司佳代子撮影

 だが、魚の頭つきは見たことがなかった。とっさに、イワシの頭と柊(ひいらぎ)を門口に飾る節分の魔よけを思い出したが、これは「スターゲイジー・パイ」(星を見つめるパイ)というロマンチックな名前で呼ばれ、英南西部コーンワル地方の一部で毎年12月23日にだけ食べるものらしい。一体どんな味がするのか。英国人の同僚に聞いても「知らない」と首をひねる。怖いもの見たさ半分で昨年末、ロンドンから列車で5時間、さらにバスで30分かけて、海辺の町マウゼルに向かった。

漁師町に残る伝説

 パイには有名な言い伝えがある。むかしむかし、ある冬、マウゼルの海は大荒れが続き、人々は漁に出られず、空腹に耐えていた。クリスマスが目前に迫るころ、トム・バーコックという名の漁師がひとり沖へ向かい、7種類の魚を、村中の人を養えるほど大量に捕ってきた。人々は大喜びで、魚をたっぷり詰め込んだパイを焼いたという。これがスターゲイジー・パイのはじまりとされ、12月23日は「トム・バーコック・イブ」という記念日になった。一見ギョッとする見た目は、パイ生地の表面を海面に見立て、波間から顔と尾を出す魚たちを表現しているらしい。

 12月23日。マウゼルは朝から曇っていたが、目の前に広がる海は穏やかだった。前泊した隣町で聞いたところ、スターゲイジー・パイを出すのはマウゼルでも1軒しかないという。午後1時前、そのパブ「シップ・イン」に着くと、店内はすでに人であふれかえっていた。

 「♪トム・バーコック・イブの…

980円で月300本まで有料記事を読めるお得なシンプルコースのお申し込みはこちら