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 大阪市のヘイトスピーチ抑止条例は憲法が保障する表現の自由に反するなどとして、市内在住の男女8人が松井一郎市長に対して、ヘイトスピーチを認定する審査会の委員の報酬など計約115万円の支払いを吉村洋文前市長に請求するよう求めた住民訴訟の判決が17日、大阪地裁であった。三輪方大(まさひろ)裁判長は条例は合憲と判断し、市民側の請求を棄却した。

 同市は2016年に全国で初めて制定した同条例でヘイトスピーチについて、特定の人種や民族に対し、社会からの排除や権利・自由の制限、明らかに憎悪や差別意識、暴力をあおることのいずれかを目的として行われる表現活動と定義。有識者らでつくる審査会がヘイトスピーチにあたると判断した場合、市が当事者の氏名などを公表している。

 原告側は訴訟でこの定義について「あいまいで、恣意(しい)的な解釈の恐れを払拭(ふっしょく)できない」と主張。氏名の公表は、公権力が差別主義者と評価したと公表するに等しく、表現の自由が制約されるとしていた。実名公表でプライバシー権を侵害する恐れがあるとも訴えていた。

 一方、市側は条例による実名公表は公権力の都合の悪い表現を抑圧するものではなく、市民の知る権利に奉仕する情報提供にあたると指摘。ヘイトスピーチで侵害される人格権などを保護することは公益的、人道的見地から強く要請されており、条例が表現の自由を制約するとしても、公共の福祉により必要で合理的なものだと反論していた。

 ヘイトスピーチをめぐっては、同市の条例制定後の16年5月、ヘイトスピーチの解消を目指す対策法が国会で成立。川崎市は昨年12月、ヘイトスピーチに対する刑事罰を科す条例を全国で初めて制定し、差別的言動を繰り返すと最高50万円の罰金が科されるとした。(米田優人)

ヘイトスピーチ認定8件、氏名公表も

 約6万7千人(昨年2月時点)の在日コリアンが暮らす大阪市では、激しいヘイトスピーチが繰り返されてきた。そこで橋下徹元市長と、その後を継いだ吉村洋文前市長の肝いりで制定したのが、今回のヘイトスピーチ抑止条例だ。

 表現の自由に抵触する恐れは当初から懸案材料だった。条例の検討段階から有識者による審議会が指摘したほか、市議会でも一部会派が慎重な議論を求めて審議が長期化。それでも橋下氏らが「言葉が表現の自由をこえている」と強く主張して、1年半かけて成立にこぎつけた。

 市はこれまでにネット動画や街頭活動など8件をヘイトスピーチと認定。昨年末には氏名が特定できた2人の氏名を初めて公表した。大阪市の松井一郎市長は判決を受けて「合憲と判断されて良かった。生まれた場所や国籍でその人の存在価値や意義を否定するような表現は、この世界からなくなってくれたらいい」と話した。

 原告側代理人の徳永信一弁護士は判決後の会見で「政治的な発言をする表現者らを萎縮させかねない判決で、大変残念だ」と不満を示した。一方で、ヘイトスピーチ規制の是非について初めての憲法判断が示されたとして、「(今後のヘイトスピーチの問題をめぐる)議論の土台になる判決だ」と評価した。

 ヘイトスピーチを規制する動きは広がっている。ヘイトスピーチの解消を目指す対策法が2016年5月、国会で成立。川崎市は昨年12月、ヘイトスピーチに対する刑事罰を科す条例を全国で初めて制定。差別的言動を繰り返すと最高50万円の罰金を科すことにした。(本多由佳、山城響)