娘を奪った殺人犯、あなたは許せますか ある夫婦の決断

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タラハシー〈フロリダ州〉=藤原学思
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 毎週火曜日の夜になると、その夫妻の自宅には、ある男性から電話がかかってくる。「調子はどうですか」「あのレストランに行ったわ。ハンバーガーが最高ね」。そんなたわいもない会話は、決まって15分で途切れる。

 電話をかけ続けているのは、米南部フロリダ州タラハシーの刑務所にいるコナー・マクブライド受刑者(29)。受けるのは、30キロほど離れた場所に住む、アンディーさん(60)とケイトさん(61)のグロメアー夫妻だ。

 夫妻は約10年前、娘のアンさん(当時19)を殺害された。犯人はアンさんと将来を約束していたコナー受刑者だった。それでも夫妻は、コナー受刑者を「許した」という。なぜ、許すことができたのか。それが知りたくて、2019年11月中旬、グロメアー夫妻を訪ねた。

仲間に頼られた19歳

 その家は、細い路地を進んだ森の中にあった。広大な庭から、鳥の鳴き声が聞こえる。レンタカーを止め、ドアベルを鳴らすと、2人が「ようこそ」と笑顔で迎えてくれた。木材を基調とした2階建ての一軒家のリビングで、私たちはソファに向かい合って座った。

 私は短く身の上話をした後で、こう切り出した。「アンさんはおふたりにとって、どのような娘さんだったんですか」

 アンさんは1991年、グロメアー家に末っ子の三女としてうまれた。生まれたときから体が大きく、10パウンド(約4500グラム)もあった。学校のクラスでもずっと身長が一番高く、亡くなったときは6フィート(約183センチ)だった。

 演劇が好きで、高校では授業も取った。ただ、舞台の上で演じるというよりは、助監督や照明といった裏舞台のことを好んでやった。教師や仲間は、こぞってアンさんを頼った。

 外で体を動かしたり、動物とふれあったりすることも好きだった。自宅では馬を飼い、よく世話をした。ワシやタカ、ファルコンも好み、将来は野生の馬の保護施設で働くか、猛禽(もうきん)類を手なずける鷹匠(たかじょう)になることを夢見ていた。

いつもの日曜が一変

 事件があったのは、2010年3月28日だった。

 予期せぬ訪問者が来たとき、グロメアー夫妻は庭いじりをしていた。ケイトさんは野菜を作り、アンディーさんは花を植え。よく晴れた、いつもと変わりない日曜日だった。

 夫妻が汚れた手を洗うために…

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